作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成17年1月号) < *新仮名遣>  


  朝 霞 松浦 真理子 *

君は子を悪魔のように言ったけどならば天使に育てればいい


  千 葉 渡邉 理紗 *

燃えるゴミを月水金というように職場のはいちがきめられていく


  宇都宮 秋山 真也 *

ケイタイのボタンを押してひとしきり孤独に浸り眠るよ僕は


  京 都 下野 雅史 *

海に咲く花の如くに鮮やかな珊瑚の森にわれ一人なり


  大 阪 浦辺 亮一 *

答案に走り書きした上の句に講師の下の句がつきて戻りぬ


  倉 敷 大前 隆宣 *

亡き父が買った西鶴の古い本変色したのを読み返しいる


  周 南 磯野 敏恵 *

心なき言葉にやすやす沈みゆく己れ弱しとまたも思いぬ


  北海道 小倉 笑子 *

悲しみにくれしこの秋ふけてゆき雪虫が飛ぶ冬も近きか


  大 阪 大木 恵理子

閉ぢし目に笑みの漂ひ蹲る亀石は千年を経て家々の間に



(以下 HPアシスタント)

  福 井 青木 道枝 *

今もわが内に生きいて海を見る父いますがに海を見ている


  札 幌 内田 弘

午前二時となりて始まる工事ありマンホールより人現はれぬ


  ビデン 尾部 論 *

バスティアの海去りがたし一日毎汝に笑顔の戻り来し海辺


  横 浜 大窪 和子

祝の宴長ければフロアの開かれてふたりは踊るサルサのリズムに


  東広島 米安 幸子

子等よりの旅のクーポン持ちて出づ石見の海の波音恋ひて


  島 田 八木 康子

「永久に続く命も辛からむ」思ひもかけぬ一矢を浴びぬ


選者の歌


  東 京 宮地 伸一

髪を染めてゐるかと指さし問ひし君我より若く早くみまかる
                        (追悼島田修二氏)

晩年の家庭のことには誰も触れず君悼むにも心使ふか


  東 京 佐々木 忠郎

屠蘇のあとに出さるるジョニ黒も嬉しくて松野君を誘ひ君を訪ねき

父よりの仕送り貯めて墨水書房に『天沼』購ひき昭和十六年なりき


  三 鷹 三宅 奈緒子

山裾を灯ともしてゆく二輌車は陸羽東線か峡の夜ををり

六人の六人なべて夫亡きになにに懐ひを言ひ出づるなし


  東 京 吉村 睦人

九十年前先生勤めし荏原中学その百周年式典に今日われは来ぬ
                           (現日体荏原高校)

卒業生木村禧八郎のこと話すそを歌ひし土屋先生の二首を引きて
  (「禧」の偏はしめすへんなのですがフォントがないため「禧」で代用しています)


  奈 良 小谷 稔

林道を拒みてつひに護られしブナは並み立つ天さへぎりて

白神のブナ護るべくオーナーの一人とならむ古本送る


  東 京 石井 登喜夫

うちつけに言ひたるものか悔いてをり滅びの光見ゆる思ひを

表はしがたき吾の嘆きよ叫びたくなりて茂吉の歌集投げうつ


  東 京 雁部 貞夫

おびただしき黒曜石の矢尻あり猪(しし)鹿食らひて人は生きしか

掌よりも大きクロカワ焼きて食ふ香りよし苦味よし黒きこの茸(たけ)


  福 岡 添田 博彬

海見ゆる丘に笹の実を食ひたりき戦(いくさ)危ふきを知ることもなく

終の会ひと肝病むのみを告げたりき恥ぢらふ如き表情をして


  さいたま 倉林 美千子

対岸を灯点して二輌の列車過ぐ人の溢るる街を目指して

ショルダーを掛け替へて傍(かたへ)を過ぎゆきぬ彼の人も世に疲れてゐるか


  東 京 實藤 恒子

仲麻呂と同期留学の遣唐使の墓誌発見に心をおどる

高木卓即ち安藤煕(ひろし)ドイツ文学者小説家にして「遣唐船」を


(以下 H.P担当の編集委員)

  四日市 大井 力

打たれたる警策棒にしびれゐし背中がいつも長くぬくもる

熟れて落つる柿さながらに終へたしと坐禅のあとに誰かが言ひぬ


  小 山 星野 清

ヒンドゥーの神に机に枕べに今日置く花は香るプルメリア

鼈甲の大き匙にてもてる粥にこの朝もめづらしき草の香のあり


先人の歌


「黄煙」         近藤 芳美 『静かなる意志』(昭和24年)



並木の葉影ある如き夕べにて華かに地下室の入口灯る

川にそそぐ雨白々とさびしきにレインコートの裾濡れて行く

この夕べ廃車のあひに交りつつ黄なる煙をあぐるトラック

入歯外し酒吐きつづくる吾が一人心は冴えて歩み行くべし

疲れし時痣うきて居る妻の皮膚もろきはかなきものと思ふよ
*戦後せきを切ったような生活短歌の流れの先端に近藤の歌が光っていた。
                     

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