作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成18年9月号) < *印 新仮名遣い>  


  宝 塚 湖乃 ほとり *

夏の夜の浅き眠りに見る夢に君のまぼろし追いかけていし


  東 京 剱村 泰子 *

「ニートだね」「そうだね」なんて言っている場合じゃないけれど学生最後


  東 京 斉藤 瞳 *

手短な連絡網に手を伸ばし夜中の心細さを埋める


  宇都宮 秋山 真也 *

世の中に悲しみがあるのではなくて人そのものにひそめると知る


  川 崎 小泉 政也 *

忙しい時は焦って苛立つが暇なときには何かむなしい


  京 都    下野 雅史

郊外の緑に囲まれし住宅街茶系の色に揃へられをり





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

家族四人国を三つに隔たりて眠る夜といえ一つ星の上
車より徒歩を選びて行く道に水辺へつづく石段を知る


  横 浜 大窪 和子

森深くいづへともなくつづく径歩みゆきたしその尽くるまで
リラの花咲き盛る道ベルリンの壁の跡ゆく東に西に


  那須塩原 小田 利文

父の日を祝ひくるるか掌をひらひらさせて踊り出したり
子も寝ねて勝利の瞬間見届けむと戻りしにジーコの無念の表情


  東広島 米安 幸子

見比べて見劣りせぬとその父の真顔に言へり昨日生れしを
腕に眠るみどりごの髪そよがせて風の通へる木陰にしばし


  島 田 八木 康子

他の誰も口にせざりし直言を得つと悔しき心を宥む
大方は流して終る人の中真向かひて言ひくれし心よ



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

南の島に兵なりし日を思ひつつドリアンを食む六十年ぶりに
日本人の横綱なきを嘆くと言ふシラク大統領いよいよしたし


  東 京 佐々木 忠郎

昨日三つ今日は五つ咲く昼顔の一日(ひとひ)の花を吾は愛しむ
木犀の秀枝より空(くう)に伸びゆける昼顔の蔓を夜床に思ふ


  三 鷹 三宅 奈緒子

さかんなる春蝉のこゑ今年また杖曳きて森の山荘に来つ
この沢のひびきわがものと歩むなりいつまで歩む吾とは知らず


  東 京 吉村 睦人

命ある限りつづかむこの思ひ思ひのままに終るともよし
朝顔の鉢を抱へて帰りゆく今日終業式の小学生ら


  奈 良 小谷 稔

明けを待ち若葉の中を歩まむか時鳥鳴く下に覚めゐる
遊び知らぬ世代と言はれ遊び知らぬ歌と言はれて一生終らむ


  東 京 石井 登喜夫

小泉君は吾をみちびきて疲るるか雷鳴の如きいびき夜すがら
飲まず食はず遊ばぬ爺(ぢい)に構ふなと言へど離れず政也はやさし


  東 京 雁部 貞夫

和田(ホータン)はタクラマカンの西の果て媼の歌あり驚きて読む
むし暑き一日(いちにち)なれど快し校正の合ひ間に西域行の媼を知れば


  福 岡 添田 博彬

お叱りにはならなかつたのよと言ふ君を大胆とも無垢とも羨みたりき
伴ひし少女の一人は今もなほ歌作りゐるを告げたかりしに


  さいたま 倉林 美千子

幼くて風船爆弾を数へたる土橋ゆらゆら記憶の底より
面会の親と別れし「なみだ橋」別れて孤児となりし幾人(いくたり)


  東 京 實藤 恒子

労らるる齢となりしか高遠のこひがんざくら咲き満つるなか
時の間は桜の精か花に隣り花におほはれ花の間にまに



(以下 HP指導の編集委員、インストラクター)

  四日市 大井 力

智をかざし智に敗れたる若者のあらはに見せし利潤執着
偽装設計の必然を背後にて導きし者等を罰し得ざるか法も


  小 山 星野 清

黄と黒の太き縞あざやかなる魚が群れて素早しサンゴの海に
肌の色さまざまにして皆若しバリの砂浜に嬉々として遊ぶは


  札 幌 内田 弘

四階のマンションの窓よりふらふらと紋白蝶は部屋を巡りぬ
人間の表情に戻りビルを出でサラリーマンが居酒屋に入る



先人の歌


長塚節の歌



単衣(ひとへ)着てこころほがらになりにけり夏は必ずわれ死なざらむ
脱ぎすてて臀(しり)のあたりがふくだみしちぢみの単衣ひとり畳みぬ
ぽぷらあと夾竹桃とならびけり甍(いらか)を越えてぽぷらあは高く
小夜ふけてひそかに蚊帳(かや)にさす月を眠れる人は皆知らざらむ
さやさやに蚊帳のそよげばゆるやかに月の光はゆれて涼しも


長塚節の病中詠の名作「鍼の如く」(はりのごとく)より
                     

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