作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成21年11月号) < *印 新仮名遣い>


  武蔵野 坂本 智美 *

教員の顔から素になる炎天下デイズニーシーで虚勢を流す


  大 阪 目黒  敏満 *

校庭に停めおく車に二個三個セミの抜け殻のせられしかな


  高 松 藤澤 有紀子 *

この児らも日食を見しをいつの日か懐かしく思うや我らの如くに


  宝 塚 有塚 夢 *

寂しさとはどこから来るものなのか人間存在の初期設定(デフオルト)なのか




(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

その青き羽うつくしく草の葉のいまだ揺れつつ翡翠(かわせみ)とびたつ
指ひとつにパソコンのキー打つ母のその指に来て文鳥とまる


  横 浜 大窪 和子

かく貧しき国にいつよりなり居しか不況となりて暴かれてゐる
この不況に躊躇ふわれらを促して旅へ誘ふ娘とその夫は


  那須塩原 小田 利文

子を膝に漕ぐブランコの音寂し山法師の実また一つ落ちて
ライオンは交尾し虎は水浴びす動物園楽し真夏の夜の


  東広島 米安 幸子

朝の卓にみどり柔らかき蕨あり木曽駒高原に生ひて太しも
白樺と落葉松交じる高原にメタボタイプの木曽馬が群る


  島 田 八木 康子

いつまでも忘れ物にこだはる生き方は止めよう遠きこほろぎの声
太陽が西より上る訳でなし思ひを切りてわが立ち上がる



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

わが晩年の幸(さち)と言はむか送られし梅酒と果実酒こもごもに飲む
今世紀のうちに出で来よ月面に立ちて短歌も詠み出だす人


  東 京 佐々木 忠郎

ふるさとを偲べと友よりがんがん寺(でら)と港の見ゆる絵葉書届く
足萎えて行くこと叶はぬ古里の新聞くれば貪りて読む


  三 鷹 三宅 奈緒子

医師の身のいかに切なくゐ給ひけむとどむる難きおのが病変
去年の日もしかりき一夜(ひとよ)林に降る晩夏の雨を聞きて寝むとす


  東 京 吉村 睦人

昨夜(よべ)の風にあまた落ちたる桜の葉木漏日明るき道をわが行く
青山にいただきし菊幾種類持ちてゆくべき庭なき新居


  奈 良 小谷 稔

廃屋の軒下にいまも透きとほり蝮を浸す焼酎の壜
大き商社の看板掲ぐる養鶏場かかる過疎村の奥深くあり


  東 京 雁部 貞夫

眉根寄せするどく射抜く眼持つ憤怒の相と言へど浄らに
鞭のごと強靭にして宙支ふ阿修羅は細き腕(かひな)広げて


  福 岡 添田 博彬

・今月、病気療養中の添田博彬選者の作品は欠如しております。



  さいたま 倉林 美千子

ほのかなる光を保つ湖面には触れず雨雲の押し移り行く
噴きてゐし間欠泉も暮れゆきて湖はひととき膨らみて見ゆ


  東 京 實藤 恒子

自づから覚悟されしか細胞に効く抗癌剤のなきを知りしより
手立てなき六月(むつき)余りその内なる葛藤を様ざまに思ひてやまず


  四日市 大井 力

雨霧に宮浦の森の合歓が浮く兄の盆会を終へて帰るに
花どきを終へし田原に霧沈み遠く宮居の森の黒ずむ


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  小 山 星野 清

雲暗き空は眺めず事務をとる日食の中継を時に覗きて
北関東通るといふ皆既日食帯うれしめどああ二十六年の後


  札 幌 内田 弘

うしろより我が背にいきなり抱き付きぬこの子はだあれ暖かき体
透き出でて蝉は抜け殻残しつつその腹しばし大きく息づく


  取 手 小口 勝次

正月に食ぶる黒豆成る里の丹波にわが乗る電車は入り来ぬ
仕事終へ力のぬけし思ひにて駅へのふれあひ橋を渡れり


先人の歌


佐藤 佐太郎

暮方(くれかた)にわが歩み来しかたはらに押し合ひざまに蓮しげりたり     「歩道」
電車にて酒店加六に行きしかどそれより後は泥のごとしも     「歩道」
冬山の青岸渡寺(とじ)の庭にいでて風にかたむく那智の滝みゆ    「形影」
蛇崩(じやくづれ)の道の桜はさきそめてけふ往路より帰路花多し 「天眼」              
篁(たかむら)のうちに音なく動く葉のありて風道の見ゆるしづけさ  「黄月」

                     

バックナンバー