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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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つひに最早行くことなけれどミンダナオもセレベスも今はなつかしき島
暗号書抱きて海に飛び込みし彼(か)の兵士は今も沈めるままか |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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魁けて老老介護の歌集を出版せり即ち新アララギ発行所編『いのち支へて』
介護十人集歌数一千首を編集せる小谷稔氏内藤昇氏の労を敬ふ |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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この川に寄せて嘆きを詠ひにき亡き友新貝雅子さんおもふ
過ぎし日々を語りあかぬに暮れ暮れて川面はいよよ靄こめて来ぬ |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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短歌にはいろいろあつて構はないそれが今夜のわれの結論
失ひ来しは物質のみに非ざるをしみじみ思ふこの狭き部屋に |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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三輪の道は若葉あふれて清すがし栗の房なす蕾もみどり
沿ひて下る水路に水のほとばしり田植の近し巻向の野は |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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禅定の僧に「海」の名多かりき「法(のり)の海」といふ語にちなめるか
鉄海もその上人の一人にてここより補陀落渡海を志ししや |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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今日の祈りも変ることなし外気少し動く御堂の伎芸天の前
楠の落葉の音が後ろより追ひて来る一人御寺を去らむとするに |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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浅草寺は友の母君の実家にて先達の詣でわれも親しむ
五言絶句のみくじの結句は「莫作等閑看(なほざりにみることなかれ)」心してゆかむ |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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処女子(をとめご)の口醸による発酵酒いまも持てるか三輪の大神
耕牛の乳を煮詰めし保存食蘇とぞ飛鳥のまへの智恵にて |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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みづみづしき林檎を朝々食ふ日々の幸を思へり部屋のぬくとし
林檎食へばまた思ひ出づ病む兄に遠き闇市にて買ひしふたつを |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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自動ドアホームに開(ひら)けば温かき人間の匂ひ車内より溢る
網棚の中に押し込むショルダーバッグ妻よ土産も収めてあるぞ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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犬吠埼の海に沿ふ道上り来て「地球の丸く見える丘」開く
犬吠埼灯台下の君ヶ浜に夢二独歩の碑を探し行く |
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