作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成22年9月号) < *印 現代仮名遣い>



  大 阪 黒木 三郎

四月よりソフトテニス部新設し光る汗より子らが眩しい


  高 松 藤澤 有紀子 *

ぼちぼちも良きかもしれぬ一歩一歩歩める児らの姿見おれば



  福 岡 稲村 敦子  *

「おはよう」と目を見て話すこの瞬間 一番良い顔作れてるかな


  宝 塚 有塚 夢 *

いつからかだんだん大人になるにつれ失敗だけを恐れ避けてる




(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝

感覚の麻痺せしごときひと月の過ぎたり血を噴く思いの後の
ピアノの音に身をゆだねきてわが内にことば生まるる予感しきりに


  横 浜 大窪 和子

身細りし君を思はず抱きたり心励まし別るるときに
五十年前わかれし友より電話あり憑かれしごとく語るに戸惑ふ


  那須塩原 小田 利文

リクエストの絵本は今宵も『かぜこんこん』六月も寒き夜の続きて
訓練では嫌がりてゐし階段を子は昇り来ぬ父吾を追ひて


  東広島 米安 幸子

行くところ青吹く風のひかるなりケリーとの往還今はまぼろし
この角を左に曲がりて畦草にしやがみてゐしかケリーはいつも


  島 田 八木 康子

来るたびに小変化ある東京駅十余年通へど慣るることなし
結論を先づ言ふべきを長々と伝へて又も疎まれてゐる



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

土屋先生坐れば一瞬に会場の空気変りし思ひせし常に
先生にほめられしこと二度ありき今も生きゆく励ましとなる


  東 京 佐々木 忠郎

みどり濃き木賊を切りて爪磨くを教へてくれし父若かりき
この秋は河津桜を裏庭の金木犀伐りて移さむ目論見


  三 鷹 三宅 奈緒子

年へだてて来し安芸のくに幼く別れし生母のくによと二日やどりぬ
原爆にも残りし大楠とかの園にともに仰ぎし人は今亡し


  東 京 吉村 睦人

紫を帯びて出でこし桔梗の芽わが喜びはかくひそかなり
高空を飛びてゆくあり飛行機に乗ることもはやわれに無からむ


  奈 良 小谷 稔

塩害を怖れつつ潟の水引くか早苗田は潟の濁りに並ぶ
北潟より吹きくる風の冷ゆる日を友の心の衣を重ぬ


  東 京 雁部 貞夫

大切に本を扱ふ気風失せやがては歌も滅ぶといふか
謙譲の美徳といふも今は死語コツプの中の嵐を前に


  さいたま 倉林 美千子

子の住める国より来しか覚えなきポピーが庭にふらふらと咲く
少年と若き夫と住みたりきベルリンの壁のそそりゐしころ


  東 京 實藤 恒子

下水道工事の轟きやみゐるにふと気づきたり校正終へつつ
幅広くうすくれなゐの漂へり神田川は夕べの光となりて


  四日市 大井 力

何のこともまことが基本となる口調咎めもせざる五人誰もが
西の山に雲切れて日の傾けり川上遠く油光りして


  小 山 星野 清

蕾白くふくらみて来しえごのきは二日見ぬ間に花こぞり咲く
雨降ればえごのきの花重々と枝垂れてはやも散り初めたり


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

鋼材を吊りしクレーンの回転よひとつ廻れば街は暮れ色
サイレンに追はれて逃げ行く反骨か暴走野郎も既に日常


  取 手 小口 勝次

細き雨降りて筑波嶺煙る朝つつがなく友らの集ふを祈る
早苗植うるころに歌会の下見に来し田の真中に白鷺ひとつ 


先人の歌


土屋文明  天の川  歌集「山下水」より

宵々の薄明につづく山の上のあやしきひかり天の安川
谷せまく山にかかれる天の川ひかりはおつ黒き彼方に
とざしたる豆の葉ずゑの夜の露いつわが庭の秋となりたる
虫のこゑいまだ少き草むらに老いてすがれる蛍がひとつ
夜とともに澄む空深く光あり二つに目だつ天の川すぢ

 以前にここに紹介したかもしれないが初秋の歌としてやはり第一に推したい。
一首目の「天の安川」は「古事記」の神話にでる天上界にある川。
二首目の「おつ」は「落つ」
三首目、大豆でも小豆でも豆の葉は夜、閉じる。
五首目、この中で私が一番好きな歌。でも街の照明で星空がほとんど見えない。
                     

バックナンバー