作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成23年2月号) < *印 新仮名遣い>


  大 阪 黒木 三都

自転車に傘に携帯電話まで「何か減らせば」の声届かぬか



  高 松 藤澤 有紀子 *

齢七十衰え知らぬ義母の口疎ましけれど安堵もしつつ



  白 山 上南 裕 *

事故に遭い石に横たうみ子の上に雪は静かに降りかかりいる



  宝 塚 有塚 夢

パーマをかけたることにすら反応す我が生徒らの今朝の興味は





(以下 HPアシスタント アイウエオ順)

  福 井 青木 道枝 *

雨やみて夕日の匂う丘のうえ北につらなり白樺の木々
この丘にひとりわが来し日のありき臨床心理士の職を願いて


  横 浜 大窪 和子

飛鳥川の橋を渡りてゆるき上り祝戸の秋に今年も遇ひぬ
剥き出しの岩に囲はれし小さき洞謀反疑はれし皇子の墓といふ


  那須塩原 小田 利文

今日も一日働きとほしき血圧の高きも職場廃止も忘れて
義務的に座りし酒宴の楽しくなり午前零時の哄笑の中


  東広島 米安 幸子

琵琶を掻く人も駱駝も息荒く風の中行く衣なびかせて
蕭々と風に掠るる音色とも古代の琵琶の音を聞くなり


  島 田 八木 康子

寂しとも嬉しとも思ふいつよりか子がさりげなく我を労る
底のなき沼に一歩を踏み出だす心地にも似て老いといふもの



選者の歌


  東 京 宮地 伸一

給食のどれも旨からず飲みたしと又また悪しき癖を発揮す
時により作歌の真似をせむかとも期待せしかど今はあきらめむ


  東 京 佐々木 忠郎

居宅介護支援会社の婦人社員「歩行困難」と認定して車椅子貸与下さる
月に一度横浜より来る長男が妙正寺公園まで押すと嬉しきことを言ふ


  三 鷹 三宅 奈緒子

二十代の吾と少女らのかかはりよ六十年へだて相会ふ十七人
赤きベレーかぶりて文学少女なりきいま堂々と中華料理研究家


  東 京 吉村 睦人

春となりおどろに長けし七草籠なほ玄関に置きていましき  吉田正俊先生
一枚に二首歌書きし珍しきしかもペン書きの君の色紙


  奈 良 小谷 稔

棺に添へ神獣鏡幾枚かならべたる模造の古墳は出土のままに
遠き世に地震に石室の崩されて盗掘免れしこの神獣鏡


  東 京 雁部 貞夫

雨あとの水音高き飛鳥川妻と辿りぬ芋峠まで
芋峠は吉野へ至る故き道耳我の峰に雲のわき立つ


  さいたま 倉林 美千子

二上山(ふたかみ)の麓の(ひつぎ)未完の蓋が罪人(つみびと)大津を意味すといへり  鳥谷口古墳
権力の強ひし死を幾多の陰謀を秘めて葛城の道暮れてゆく


  東 京 實藤 恒子

彦山川(ひこさんがは)にどつと入りて喚声あがる大小のみこし山車(だし)十二三  川渡り神幸祭
川の中に山車を上下し蛇行して散る水しぶき光となりて


  四日市 大井 力

穭田の浅黄にうるむ遠き果て仙ヶ岳にいまをさまる夕日
霜月の時ならぬ黄砂にうるむ日の斜めに差して黄ばむ穭田


  小 山 星野 清

みどり明るき林をくぐる木道に心素直になりて踏み入る
新しき木道あればなほも行く体力も日程も今は思はず


(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー)


  札 幌 内田 弘

原発が核攻撃の標的に変はるは誰でも知つてるではないか
暗証の番号に開けるこのドアもやがて開け得ぬ老いの日は来る


  取 手 小口 勝次

基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字を図るべく国は民間の努力を見習へ
保守野党益なくせめぎ合ふうちに他国から難題突き付けらるる


先人の歌


大村 呉樓

明治28年大阪池田生。大阪毎日新聞社勤務。中村憲吉門下。
関西アララギの責任者として「高槻」発行。
土屋文明をして関西には大村呉樓が居るではないかと言わしめた逸材。
昭和43年74歳にて永眠。

道にあふ部落びとらにわれよりは顔ひろくして妻が会釈す
文化勲章に輝く君を単純にはよろこびがたき録音のこゑ
菜葉服に替へて出で来しが枯草を焚きしばかりに畑昏くなる
いく年となく点字歌壇を選び来てつひに寂しも盲の歌は
つぎつぎ朝起きいづる子供らを叱るこゑしてけふのはじまる

昭和27年58歳の作から。なお、先ごろ次女山内美緒さんが「父・大村呉樓 − 歌集・日記で辿るその足跡」を刊行した。(短歌新聞社3000円)

                     

バックナンバー