坪野 哲久(つぼの てっきゅう)
1906年〜1988年 本名、坪野久作。
「アララギ」に入会し島木赤彦に師事。
蕗の葉の円きひかりをみるときにみなぎりきたれあすのいのちは 『新宴』
春潮のあらぶるきけば丘こゆる蝶のつばさもまだつよからず 『一樹』
あたらしき世界国家のあくがれを説くともあらず子と地球儀まはす 『北の人』
蟹の肉せせり啖へばあくがるる生れし能登の冬潮の底
掌にのせし塩の結晶かかるものに激しく暗くあつきものわく
われの一生に窃なく盗なくありしこと憤怒のごとしこの悔恨は 『碧巌』
老人のぼくだけですね雨のなか生ごみといふ物を運ぶは 『人間旦暮 秋冬篇』
犯人はわが他になし屑籠の底より出でしこの五千円 |