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今月の秀作と選評




小谷 稔(新アララギ選者)


秀作



かすみ

陽を避けて白いパラソルさしていた亡き母といつか吾とかさなる


評)
パラソルの陰はひそかな孤独な空間。あの日の母にいつか娘の自分がかさなる。きよらかな哀しみの余韻。


佳作




下野 雅史

夏の夜の花火消えたる暗がりに学期を了えし喜び分かちぬ


評)
花火が華麗にはじけておわった闇。大学の前期が終了した安堵感。うつりゆく季節の中のいとなみにただようはかなさ。



大窪 和子

公園の昼ひそかなり白き藤と置き捨てられしボールの影と


評)
白藤とボールとの組み合わせに見る自然な偶然、写生の新鮮さはそこに生まれる。



長澤 英治

渡すもの受取る者の手際よさ駅頭に今朝もティッシュ配らる


評)
現代の都会の片隅の、日常的になった風景を軽妙に詠む。



けい

見も知らぬ二人黙して下降するエレベーターの長き10秒


評)
都会の気楽な匿名の生活にもこんな盲点があったのだ。



としえ

深夜電話の相談はまず90歳「目を瞑れない眠るのが怖い」と


評)
眠りの間に死に襲われる恐怖を訴える老人。それを簡単に救うことはできない。だからその重いことばだけを掲げる。



つね姫

ぼんやりと立ちつくすのみ夏山はまぶたを閉じても緑のにおい


評)
「ぼんやりと」という簡潔な一語にたどりつくまで苦労しましたね。


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