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今月の秀作と選評




吉村 睦人(新アララギ編集委員・選者)


秀作



高橋 美千代

春めく午後ブラスバンドは繰りかへすかつて娘と弾きし「ラピュタ」の曲を


評)
さぞかし心ときめく思いでしょう。



遠 野

ユカタンに隕石落ちて皆滅びぬ隙間に残り栄えし吾等か


評)
今度はミサイルその他、生き残れるでしょうか。



かすみ

砂塵舞ういくさは蒼きこの星を覆いはじめて三週を過ぐ


評)
蒼きこの星---地球の危機。



西岡 仁雅

うつうつとひとりさ迷ふ道の上長く伸びたる月影を踏む


評)
長く伸びた電柱か建物の月光による影でしょう。



大窪 和子

大正時代のま白きドレスにつば広帽うら若き母の写真はたのし


評)
「たのし」には様々の思いが篭もっているはずです。


佳作




KEIKO

由布岳を眺むる畦のあちこちに出で来し土筆はわがWEBに載る


評)
「わがWEBに載る」で独自になりました。




長年の勤め辞めしと友からの便りの多くとどくこの春


評)
作者もまた定年になったことが他の歌で分かります。



石川 一成

久々に量販店は賑わえり閉店セールの広告ありて


評)
現代の社会の様相を切り取った歌。



としえ

花びらのごと街路樹を超え行くは今年はやばや羽化せし蝶か


評)
作者の清新な昆虫記。



みどり

水底に息潜めいるシラタマモかすかに揺らぎ静寂の時


評)
これも清新な水生植物記。



あいこ

道端に子を抱く母は座り込む銃に倒れし夫の名呼びて


評)
「子を抱き」でもよいでしょう。イラクへの歌。



五十嵐 秋

離るれば身はそれぞれに冷めゆきて他者たることの悲しかりけり


評)
難しい情感をよく表し得ています。



長沢 英治

奈良町に入るや妻らは軒ごとの身がはり猿に声あげ歩む


評)
平凡な観光旅行詠には終りませんでした。

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