作品投稿


今月の秀作と選評




倉林美千子(新アララギ選者)


秀作



ようこ

夕闇に仏送らむ普陀落の声揃ひ切なく高まりてゆく(普陀落はご詠歌)

「この花は仏に供へてよろしきか」朝市の問ひに辺りの和む


評)
特殊な素材に取り組み情感ある作を得た。二首目の結句一寸直したが捨て難い。



かすみ

わたくしの朝顔だけがまだ咲かず濃い空色であれよと願ふ

ソフト帽木目の壁に陽に焼けて明治生まれの主待ちをり


評)
詩的感覚に惹かれた。




左のわが足首にある傷痕を「六つのときか」と母は触れたり

門毎に守る洗ひ場花絶えず今も流れの清き故郷


評)
本来の自分にかえるような時間。故郷はいいですね。



久住 誠鶴

受話器より妻の死告ぐる友の声抑揚もなく「駄目だったよ」と

まだ誰も来ぬ会社には我ひとり朝の日の差す机拭きをり


評)
事実だけを言いながら深い詠嘆が聞こえてくる。



大志

折々に脚を組み変へ留学の楽しかりしを少女は語る

イタリアにしばらく住むと蝙蝠傘高く振り上げ君は微笑む


評)
人物を活写して映像を見るような楽しさがある。


佳作




高橋美千代

紫陽花に娘の影うつりそのなかにひそむ蛍のほのかなひかり

緑増す若き欅の幹にふれ碁盤となりし祖父の木おもふ


評)
1には艶めいた美しさ、2は長い歳月を詠み込んで見事。



みどり

酸素ボンベを離せぬ義父が見舞うたび「退院する」と訴えて言う

雨蛙近くの田より移り来て月夜の庭のあちこち跳ねる


評)
その場の光景が目に浮かぶ。1は哀しく2は懐かしい。



長閑

病む姑のさ庭は春の吹き溜り黄素馨の花今また散り来

福祉という名の職場より休みとり心を病める姑を迎えぬ


評)
1は完成作。「春の吹き溜り」がいい。2は特殊な事情を残したくて少々手を入れた。



はるか

陽の匂う風がわが頬を過ぎてゆく君触れし日を思い出させて

陽の匂う風に耳から頬のあたりうぶ毛もそぉっと起きあがるよう


評)
若々しい感性に乾杯。



ぷあ

くちなしの花を手折りてわが髪に照れくさそうに夫挿しくるる

わが元を離れ住む子をまた思うテレビに映るサーファー見れば


評)
これからがお二人の新しい出発ですね。



あいこ

家々に囲まれながら今も在る青田に屋根の影がゆらめく

いつの日かこの田にも家が建て込むと杖持つ翁つぶやき過ぎぬ


評)
街中の田。うらぶれた寂しい田。見えて来る。人工頭脳の歌も採りたかったが。もう一歩。



えめ

病める母の花の畑に雑草の丈越え咲ける鬼百合の花


評)
初句「病む母の」でいいでしょう。お大事に。お久しぶりですね。



石川 一成

人の世に神秘の世界はあるものと技術屋われに僧の説くなり


評)
他の一首で作者は実証無きものは信じられないと言っているので、結句「説き給う」から「説くなり」に



遠野

髪上げて手術の跡見せ笑む友に吾が持つ傷を言うをためらう


評)
他も素材は大変良い。リズムに注意。



さちこ

朝霧の晴れ行く草原広がりて近き梢をカッコウわたる


評)
とりわけさわやかな一首。




拉致されて昼夜岩盤削りしと強制連行の話壕内で聞く


評)
「旗振って」の歌だけれども、そうしなければ罰せられたのよ。現在は様々な意味で大きな犠牲の上に築かれたわけ。



バックナンバー