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今月の秀作と選評




星野 清 (新アララギ編集委員)


秀作



大 志

やまひより癒えしと告ぐる友人の笑顔を映す今朝のパソコン


評)
友人の快癒をよろこぶ作者の気持があふれている。現代を写している下句も、うまく収っている。



としえ

露草のいろに染めたる衣まといいにしえ人はひとを恋しか 


評)
古くはこの花で布を染めたことを知って、美しく装う女人から連想されたのはなかなかによい。結句、動詞だから「恋いしか」とすべきところ。



石川一成

裏板を貼れば大屋根黒々と夕べの空に影絵となれり


評)
どうしても納得のいく歌にしたいとの執念から、なかなか難しいところをよく捉え得た。「地蔵尊」の歌もよかった。



高橋美千代

日だまりに揺るるすすきの淡き穂にまろやかな千の御手を思へり


評)
今回の一連、水準は高かった。代表してこれを揚げておく。



長 閑

静かなる光そそげるこの朝出で行かんさあスーラの絵の中に


評)
特異な歌ではあるが、こんな歌もあってよかろう。原作の「注げ」をかな書きとした。「蚊遣り」の歌など、目の付所がよい。



新 緑

礼を言ひ今別れたるその君がバックミラーの中で手を振る


評)
情景が無理なく無駄なく表現されていて、君と作者との心のつながりがよく感じられる。「焼芋」の歌、軽いが、よく一首にまとめ上げた。


佳作




け い

業績の伸びぬ職場へ向かう朝雨上がりの空だけが優しい


評)
一連3首それぞれに特色があって、安定した力を感じた。代表としてこれを揚げておく。



ぷ あ

美容師は髪を切りつつにこやかに鏡の中のわたしに話す


評)
着実な歌い方に好感を抱く。一連5首、いろいろな対象をよく捉えて表現している。



hana

庭に舞ふ落葉は螺旋描きつつガレージの中に吹き溜まりゆく


評)
何気ないところに視線をしっかりと注いで、よく捉えている。「あけび」や「酔芙蓉」の歌も、しっかりした作となった。



近藤かすみ

公園で日差しを受ける三輪車は母のむかえを待つ子に似たり


評)
一連には、感覚的にはよいものがあるようだから、表現力が身につくとずっとのびるだろう。




サーフィンの板に腹這ひ来るを待つ波の谷間に三宅島揺る


評)
題材の特殊性から、この歌を抽いた。一連5首、それぞれにしっかり歌えているが、やや説明的傾向なのが惜しまれる。



けいこ

盛りゐし庭の花壇の花なえて乏しく咲けり白菊の花


評)
途中で投げ出さずに、よくこれだけの歌に仕上げた。「ほとけのざ」の歌も、素直に仕上った。



あいこ

鐘の音の響きてわれは立ち止まる銀杏散り敷く御堂への道


評)
一連の中で、これが一番素直に歌えている。

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