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今月の秀作と選評




雁部 貞夫(新アララギ選者)


秀作



中田 満帆

若さほど恥多きものはなし頬傷押さへ一人海見る


評)
寺山修司ばりの詩情がある。「頬傷」が生きている。



米安 幸子

細き月上りて寒き夜の明けに霧わきいでてわが家包む


評)
一連では、この作が作者らしい柔らか味のある作



石川 一成

眼鏡かけ額を寄せてパソコンを学ぶ我らは莫逆の友


評)
或る年齢に達した人の作とみる。「信仰」云々の作は練り直すとよいでしょう。



かすみ

亡き父がリハビリせむと握りゐし二個の胡桃に残るぬくもり


評)
自然な感じがあってよい。「胡桃」に存在感がある。



新緑

「もう止めて」と言へども関節のばしきる「ここ一番が大事なとき」と


評)
治療する側とされる側の言葉のやりとりがうまく収まっている。
「キーボード」の歌もよい。


佳作




宮野 友和

そらみつ東京に住まふ我々をうるほすものは雨だけなのか


評)
「歌ことば」をよく知っている作者だが、使い方によっては、ひどく擬古的になるので気を付けたい。



けいこ

葉落しし木の間飛びかふ小鳥らの声聞きて過ぐ今日のひと日は


評)
大人しいが、日常作としては、十分だ。二首目は「・・・目立つる」ではなく、「目立つ」である。



としえ

指先に点字をたどりゆく君がぽつりと言いぬ色の記憶を


評)
同感できる作。「色の記憶」は「海の記憶」とでもすると、広がりが出る。



大志

商談を始めんとしてけさ見たる車窓の富士をまづは語りぬ


評)
一連の作、なかなかのレベルの高い作品。この歌が最もよい。歌の作り方をよく知っている作者だ。



山本 道子

若き日の先生住みし宇品港いま家電店の戦争の街


評)
「宇品」の過去と現在が直接的に対比されている。「若き日に」とすれば、なおよい。



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