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今月の秀作と選評



 (2007年6月)

雁部 貞夫(新アララギ選者・編集委員)


秀作



イルカ

SLの到着時刻の近づけば待ちゐる子らの声の高まる


評)
類型はあるが、よくまとまり、SLを待つ子供らの様子が生きいきと描かれている。



吉岡 健児

ぎこちなくネクタイ締めし日の遠く永年勤続表彰を受く


評)
勤め始めのかつての日々と定年近い現在の心境を「ネクタイ」に象徴させた所が印象的である。



英 山

草屋根に丸き屋根窓(ドーマー)並びたり山里になじむドイツのかたち


評)
素材が新鮮であり、そこを評価した。



大橋 悦子

モニターの刻める父の心音を聞きつつ添い寝の夜の更けゆく



評)
他の作も良いが静かで深い感じの表出されたこの作を特に選んだ。


佳作



斎藤 茂

「また来よ」と孫を抱きて送りゆくわれの心は安らかになりて



評)
一連の作では、この歌が安定感があってよい。



けいこ

須磨の海を背に進みゆくロープウェイ森広がりて緑まぶしき


評)
ずい分苦労して前後の光景をまとめ上げた。ねばり勝ちというべきか。



新 緑

新品のケイタイ買いて孫を撮り子に写メールで嬉しさ知らす



評)
ケイタイや写メールなど、現代の喜びの歌である。



若 葉

漸くにケニアの大地に降り立てり果てなき空に疲れも忘れる


評)
ケニヤ一連の歌は一応の出来だが、一般的にならぬようにしてほしい。


寸言


選歌後記

この度、新アララギ会員の佐々木フミ子さんが「短歌現代新人賞」を受賞されることとなった由。この欄の皆さんも大いに努力して後に続いて下さい。
今回の作品では、大橋さんの挽歌一連が深い感じが表現されて、印象に残った。また、吉岡さんの一連もベテランの安定した力が出ていた。イルカさんの一連もよくまとまった。英山さんの作はやや説明的な作もあったが、そこは今後の課題でもあろうか。
若葉さんのケニアの作、一般的にならないように。斎藤さんの作も説明的にならぬように工夫されたい。けい子さんの一連、しっかりとした表現力を感ずる。新緑さん、佳作のようなレベルを基準に作るとよいと思う。


          雁部 貞夫(新アララギ選者・編集委員)


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