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今月の秀作と選評



 (2007年8月) < *印 新仮名遣い>

小谷 稔(新アララギ選者・編集委員)


秀作



英 山

街路樹の欅を伐るもやむなしと仙台市民の意外な答
ふるさとの誇りし欅の伐採とは離れ住みても穏やかならず


評)
今回のは大都市の再開発と従来のままの自然保持という対立を扱ったテーマが切実な今日的問題なのでよかった。散文的説明的なたるんだ調子が引き締まったのが大きい収穫でした。



新 緑 *


車椅子借れば意外に軽くして鳥鳴き花の香の中をゆく
手摺り無き階段を下りる我が様を十人の目の見守りくれぬ


評)
「花鳥園」という施設の名をいうと単なる説明におわります。感覚的にいきいきととらえることが文学としての短歌です。障害をもちつつ前向きの生き方が感動的です。



吉岡 健児


ゑんぴつで古典をなぞる流行りなどに乗ることのなく古筆を写す



評)
材料の選び方でこの作がいちばん独特でよかった。「はやりなどに」という字余りでなく「流行に」としてほしかった。他の作はみな歌らしく整っているけれどもどこかで見た月並みな感じ方のものが多かった。



けいこ

梅雨の間に茂りたる木を病む夫は鎌もて伐りぬ孫迎へむと



評)
孫が久々に来るというので病気をおしてまで庭木を伐る祖父の張り切った喜びが感じられる。「鎌もて」はくどい説明に見えるがこの具体的な実際が大切です。


佳作



斉藤 茂


晩酌のならひは今はなくなりて妻の小言のすこし懐かし



評)
誕生日の祝いそのものを詠んだ作は一見よく見えるが型どおりの感じ方のものが多い。この作は誕生日の祝いの附録のようにみえるがこのほうが心持はしみじみと深い。



栄 藤


柿の木も切られて広く造られしふるさとの庭に車を入れる



評)
かつて田舎の家の庭には必ずといっていいほど柿の木がありました。私の郷里の家もそうでした。車社会となって柿など無用の長物として切り捨てる。そんな故郷の時代的変化が具体的にとらえられています。



イルカ *


一人住む部屋を七階に子は選ぶベランダの風に心ひかれて



評)
ベランダの風景と風にひかれて、が原作でした。歌は「対象の中から核となるもの一つを選ぶもの」です。あれもこれもとつめこむのは歌の最も嫌うことです。


寸言


選歌後記

歌会とはちがって、HPでは表情も個性も分かりにくいのでどうしても一般的な評になります。テレビの「ためして合点」の「集中力のつけ方」で見たことですが、何かに集中するとき、ご褒美言葉、と励まし言葉とがあればいいそうです。「秀作」になった、はご褒美言葉、もっときびしく、もっと純粋に、は励まし言葉でしょうか。ただしこれらの言葉を座右に見えるように掲示するその文字はワープロ文字では効果が乏しく、手書きがよいという。残念ながら、HPは顔も見えず、手書きの文字でもない。


           小谷 稔(新アララギ選者・編集委員)


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