作品投稿


今月の秀作と選評



 (2008年2月) < *印 新仮名遣い>

倉林 美千子(新アララギ選者・新アララギ編集委員)


秀作



斉藤 茂

凧揚げに走り遊びて疲れたる二人の孫と草に並びぬ


評)
爽やかな空気とほのぼのとした温かさが伝わります。結句は「並ぶ草の上」でしたが順序を変えてみました。



吉岡 健児


成らぬことあまたあらんか物言はず吾が傍らに笑みゐる父も


評)
「傘寿越え」の作を一緒に読むとなお心にしみるものがあります。「笑みをる」は重いので「笑みゐる」にしました。



英 山


山裾の色づく棚田遠く見て岩魚釣らむと沢に降りゆく



評)
近頃少なくなった自然詠です。あっさりとした持ち味が貴重な一首。「泡立草」の歌も良くなりました。



山本 景天


亡き父に届けられたる賀状なり母はひととき手に取りて読む



評)
事実を言っているだけだけれども、母を見守っている作者の眼が温かいですね。これも下の句順序が入れ替えてあります。次回の参考にしてください。「雀」の歌も良くなりました。「凧」も良いですが、「天雲」じゃなくて「雨雲」じゃないの?


佳作



新 緑


わがジャンパーきつくなりたり太りきて着るは息子の形見のジャンパー


評)
初句と結句を「ジャンパー」できっかり囲ってしまってはやはり煩いでしょう。切なさをうたうのだから尚更です。サプリメントの歌も詠う意味が今はよく判りました。



小林 久美子


幾たびも布野も赤名も通りたり歌知りてより親しみの湧く



評)
いずれにせよ背景を知って旅する方が、深い感動を得られるものですね。布野は憲吉、赤名は文明? でも大丈夫。これからですよ。



けいこ


孫去りて広きわが家のなほ広し閑かなる午後を日向ぼこせり



評)
急に静かになった感じがよく出ています。「うつろなる」の心理詠、下の句で支えられたが言葉の斡旋をもう少し。



荒堀 治雄(栄藤)


台風はよぎりて行けりレーダーの映像に小さし日本の国は


評)
「かぐや」の映像などを見ても、今更に日本は小さな国という実感がわきますね。本名を入れて下さったのね。いよいよ本気ですねとこちらの力も入ります。「杖」の歌も良い。淡々とした持ち味がでてきました。続けてください。



吉井 秀雄


北方の血を受け継ぎし青年か凍らぬ湖(うみ)を見守(まも)りて立てり



評)
温暖化を受け止めた歌なのでしょう。上の句の表現からその意気込みが伝わるので、よくまとまった「北辰」よりもあえて意欲作をとりました。しかし、「白熊」の歌になると結句などは突然すぎて読者に理解できませんよ。



いあさ


雨の日も自転車通勤変らざる息子の背中たくましくみゆ



評)
よくがんばりましたね。上の句が詰まっているので、結句の字足らずが目立ちます。「大きく」を「たくましく」にしてみました。どれも気持はわかりますが、歌らしくと思わず、素直に言いたい事をぶつけてください。



仲 山


ひさしぶりホームの屋上にあがりたり富士を遠くに眺めて降りる



評)
「玉露」の味わいも落ち着いてよいが、久々の屋上はもっと気持がよかったでしょう。「あがりけり」を「あがりたり」に。独りでも行動すると歌ができて元気がでます。歌仲間には年寄りもたくさんいますから、どんどん話しかけてください。 


寸言


選歌後記

 青木さんのコメントを取り入れて、皆様の作品が動いてゆくのをずっと見てきました。口を挟まなかったので、今回は選歌の段階で少し手を入れました。何回か見てきた方々のものは、その力量にほとんど差はありません。
 今年の新年会には 今野英山・斉藤茂のお二人が参加、堂々と作品を発表してくれました。歌は生涯のもの、マラソンのつもりでご一緒に走りましょう。


           倉林 美千子(新アララギ選者・編集委員)


バックナンバー