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今月の秀作と選評



 (2010年7月) < *印 現代仮名遣い>

雁部 貞夫(新アララギ選者・編集委員)


秀作



勝村 幸生


古びたる我が家が先に倒るるか我らが先かと妻はまた言ふ


評)
高齢化社会の不安感がよく出ている。



安 藤


一週間君のメールの途絶えしを事故か病か憂いつつ居る


評)
こういう相聞歌も少なくなった。かつては歌の主流であったのだが・・・・。



けいこ


涙拭く幼を駅に見送りてけさ抱きしめし感触思ふ


評)
下の句の具体があって全体が生きた。



紅 葉


飲みたしと思ひし酒を我慢して夕餉済ましぬ明日は逢ふ日



評)
この歌は男の側からの相聞歌。安藤さんの場合より、もっと年長者の恋であろうか。



三橋 友香


アルバムに幼き我の手紙あり愛されていたと今実感す



評)
素直で軸のぶれない作品。



長 閑


ダイヤグラム見つつ鉄道職員は踏切に立ちだんじり通す



評)
だんじりそのものよりも、こうした点景の様な場面をすくい取ることも連作では必要となる。他の作品もなかなか良い。


佳作



勝村 幸生


付き合い長き尿管結石(けっせき)は重き鞄肩に旅すれば発症す


評)
上下の句を倒置にするべきだった。



オレンジビール


朝顔のあまた芽吹けば間引きせむ庭に夕日の差し来る中に


評)
過不足なくまとまった。他の作品はもう一歩というところであろう。



まりも


叱らるるを覚悟に夫に電話する「靴が壊れた、車を出して」


評)
この歌が一番端的でよい。他の作品はやや説明的である。



三橋 友香


「おじいちゃんが来たよ」と祖母は目を瞑る鳴く鶯を亡き祖父と言いて



評)
素直で良い作品。他の作品も良い出来だ。



石川 順一


葉桜は傘無き人の傘となり仕事の帰り足を早める



評)
他の作品はやや理屈っぽい。



吉井 秀雄


工事中に路肩に置かれし竜王の里宮元の場所に戻りぬ



評)
一連では感じの出ている作品。



金子 武次郎


ご定年おめでとうとの送辞受け会社出づれば春風寒し
「良性です」その一言にほっとするMRIの結果を聞きて


評)
共にまとまりの良い作品になった。



長 閑


心細く祭囃子を聞きし日よ越したるばかりの家に臥りて


評)
遠い日の思い出だが感じのある作品。


寸言


選歌後記

一つだけ今後のために注意を。
初稿の段階では破調の作品が多かった。もっと、5,7,5,7,7音の韻律を意識して作歌すべきでしょう。その努力があって、始めて言葉も表現も磨かれたものになる。ギリギリに努力してみて、定型に収まらない場合は仕方ないが。
慢然と歌の形にだけまとめた作品でも困るが、常に歌の内容と調べの両面を意識して作歌してください。

          雁部 貞夫(新アララギ選者・編集委員)



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