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今月の秀作と選評



 (2011年7月) < *印 現代仮名遣い>

 雁部 貞夫(新アララギ選者・編集委員)


秀作



吉井 秀雄


放射能含める雨か日の暮れに濡れつつ戻る吾とわが犬


評)
原発事故の歌は多いが、秀作の歌は、大げさでないところがよい。共感できる作だ。他のものもなかなかよい。



金子 武次郎


これ以上は隠し了せず真実を語り始めし原子力村


評)
その通りと言いたくなる作だ。適確さがよい。



山根 沖


入院の吾が子見舞ひて一週間かよふ海辺は新緑の町



評)
いかにも転地療養していそうな海辺の町の様子が詠まれ、こころよい作だ。



Heather Heath H *


朝毎に味噌汁美味しと言いし人逝きし厨に今朝も降り立つ



評)
やはりこういう歌は新古の区別なく共感する。しっとりとした作である。



なの  *


追い風を背に受けながら踏むペダル軽々としてハミングのいず



評)
いかにも軽やかな初夏の街頭風景だ。


佳作



石川 順一 *


たくさんのカ―トの足が一瞬に止まれば足の指をぶつける


評)
空港などで検査場の様子と想像した。臨場感がある。



まりも


自ずから体調戻ししわがインコ一羽となりてもたかく囀る


評)
残された一羽のインコの健気さが印象的だ。



熊谷 仁美 *


全身で階段のぼる幼子に差し伸べる手をこらえ寄り添う


評)
写実力の強さを思わせる。



紅 葉 *


わが歌を選んでくれる人の名を薄くメモして歌会始まる


評)
自分の作を選んでくれそうな人の名を詠草集に「うすく」記しているのだ。その微妙なところがよい。



安 藤 *


足早やに裏通り行く梅雨の街赤ちょうちんが追いかけてくる


評)
下の句がなかなかうまい。よくわかります。



もみぢ


被災地に風雨激しくショベルカー稼働するなき一日暮れたり


評)
一連五首ではこの歌が一番よい。被災地のさまが立ち上がってくる。


寸言


選歌後記

今月の作品では、秀作と佳作に選んだ諸作の間にはそれ程の差はなかった、と言い得る。それぞれの作者への短評を記しておいたが、よい作品が揃っていた。
作者の名を記すと、吉井秀雄、HeatherHeath、金子武次郎、なの、の諸氏。それぞれ、鑑賞にたえるものと思う。
作歌の折の参考にして欲しい。

         雁部 貞夫(新アララギ選者・編集委員)



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