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今月の秀作と選評



 (2011年9月) < *印 現代仮名遣い>

 小谷 稔(新アララギ選者・編集委員)


秀作



Heather Heath H


顔火照り脱原発の聴講後出で来て夏野をどこまでも行く


評)
福島の原発の事故という未曾有の人災を今年こそ歌に残さねばならない。作者の熱い思いがこもる作。




金子武次郎


かの地震が夢ならざりしを確かむる倒れし書棚を起こしあぐねて


評)
作者は仙台市で地震に遭った。書棚を起こす苦労が悪夢ではない現実であることを嫌でもつきつける。




熊谷 仁美 *


大臣の辞任のニュースを遠き地の天気予報のように聞きおり


評)
大臣が失言などで辞任してももう驚かない。それほど政治家への期待が薄れてしまったのも作者だけか。


佳作



山根 沖


よそよそしき大学病院にをさな児は骨髄検査を受けねばならぬ


評)
どんなに最新の医療機器を備えていてもやはり人の心が欠けては安心できない。



もみぢ


 木瓜の実の数多葉かげに色づけど果実酒作る気力衰ふ


評)
老いは思わぬところに忍び寄っている。



紅葉 *


梅雨明けの青空映す海の面週明けからの段取り思う


評)
明るい海を眺めながら仕事の段取りをする健やかさ。



なの


揺らぐごと聳え立ちたる高層ビルガラスの壁に入道雲ひとつ


評)
都会の高層ビルにもこんな夏の絶景がある。



まりも


見舞ふ吾を待ちかね用を言ふ夫よ完全看護と言へど不足か


評)
完全看護も気分までは看護できない。



石川 順一 *


団栗が芽を出し二寸ほど伸びる夏は節電に気を使う日々


評)
団栗はマイペースに自然に生長している。



安 藤 *


砂時計にガラスの釘をひとつ入れ時の流れに逆ってみる


評)
人間の主体性がどこまで保たれるか。



おれんじぴーる


被災者の君にメールは届きしか返信は来ず時は止まれり


評)
人とのかかわりで時間が意識されるのか。


寸言


選歌後記

今月は小田さんが郷里で仏事などあって多忙のため私が代わりを託されたのですが、手違いのため十分な対応が出来なかったことをお詫びいたします。

            小谷 稔(新アララギ選者・編集委員)



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