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(２０１３年10月） ＜ ＊印 新仮名遣い＞ |
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大井 力（選者・編集委員）
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| 秀作 |
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○
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峰 俊
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日にかげり由布の山肌濃くなりてひぐらし遠く鳴き移りたり
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評）
歌は抒情詩であることを証明する一首。叙景でありながら抒情詩であることは難しいのであるが、対象をよく見ることで抒情を結晶させた。 |
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○
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菫 ＊
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宗教に頼らず病と向き合いし友送りたりビートルズかけて |
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評）
一連、友人の水葬を詠まれているが、どれも友をよく悼み、表している。深いかなしみを覚える作である。 |
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○
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きよし ＊
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家持ちし祝いに父が植え呉れし黒檀（くろき）の枝葉の緑の深し
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評）
原作は「緑は」であったが「緑の」にして取った。一連から亡き父と分かるが父への思いの深い一首にあった。 |
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○
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時雨紫 ＊
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目も見えず聞こえざる筈の母の問うフルート奏者の息継ぎの箇所 |
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評）
聞き得ざるものを聞き分ける感覚があるのであろう。息遣いだけはわかる微妙な母の感覚をよく把握している。
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○
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くるまえび
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台湾の日本懐かしむともどちは大和ことばで歌を詠みあふ
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評）
海を越えて異なる国に歌を詠みあう友がいる。言葉の強さを思わずにはいられない。難しい国際問題はあろうとも文芸に境はないという作者の主張に同感する。 |
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○
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ハワイ アロハ ＊
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家々をシルエットにして巨大なるオレンジ色の月上り来ぬ |
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評）
ハワイ在住の作者と思われるが現地の情緒がくっきりと把握されている。
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○
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蒲公英
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赤き鯛アホレホレの名を町筋に付けて人びと穏やかに住む
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評）
この作者もハワイ在住か、または訪問されての歌、町筋の名の珍しさもあるがこの作の全体の雰囲気が温かい。こういう歌もいい。 |
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○
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波 浪
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遠く来て漸く会へしそれのみにこころ足らひて手も取らざりし
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評）
こういう情感はもう忘れ去られようとしているが、この懐かしさはどこから来るのか。相聞であるようでないようで、だからいい。 |
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○
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栄 藤
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無呼吸を調べむとする録音の寝息に混じりアケガラスの声
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評）
どんなところにも歌は落ちている。こういう発見もいい。今の歌だ。 |
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○
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紅 葉
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スーパーの店主の声が遠のきぬ仮設店舗の屋根の雨音
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評）
被災地に住んでいる歌か。訪問しての歌か迷ったが、前後の歌から訪問しての歌として取った。結句は「屋根の雨音に」でもいい。今の歌だ。 |
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○
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Heather Heath H
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日の熱り冷めて出で来し夜半の庭夾竹桃匂うに深呼吸しぬ
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評）
生活の一こまの歌、こういう歌は難しいがよく消化されている。かすかであればあるほど丁寧に詠う必要がある。この歌は丁寧に詠われている。 |
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○
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茫 々
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尼寺の焼け跡にまたとき巡り鋭く赤し曼珠沙華の花
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評）
原作は「また秋は来て」であったが「またとき巡り」とした。曼珠紗華と秋はつき過ぎであろう。 |
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| 佳作 |
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○
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峰 俊
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七十歳の区切りの会にまた会いぬ昔のままの笑窪の君に |
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評）
原作は上の句「出でし君」であったが韻律が乱れるので少し手を加えて取った。君は異性であっても同性であってもいい。懐かしい感じがよくでている。 |
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○
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ハワイ アロハ ＊
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内腕にキティーの入れ墨のぞかせて女子行員のドル札数う
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評）
女子行員はを女子行員のにして取った。現地のみたままをくっきりと切り取っている。こういう嘱目もいい。 |
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○
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菫 ＊
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水底に包みの溶けて海流に漂うか君のなきがらの灰
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評）
水葬の一連であるが、投稿のやり取りにてティーという植物の葉に包むと聞いた。切ない歌である。秀逸に取ってもいい歌である。 |
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○
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蒲公英
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賜りし島の筍ほろ苦く妹作りし煮物恋しき
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評）
妹の筍煮はふかく歯ざわりのいい筍であったのであろう。今住む島の筍はほろ苦い。ふるさとを思う心がよく出ている。 |
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○
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金子 武次郎 ＊
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境界の無き海なればおのずから福島より宮城にも及ぶ汚染か
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評）
災害現地に住む作者と思われるがこれは観念ではなく現実感であると思った。難しいテーマであるが真面目に挑戦しているのがいい。 |
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○
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きよし ＊
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枝枝を垂るる雫の間延びして雨上がる庭に差し来る夕日
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評）
よく凝視されている。身の廻りにはいくつも発見がある。雫が垂れはじめた頃から作者は見ている。息を詰めるような凝視がいい。 |
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○
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波 浪
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八十五の齢となりぬ健診はもう止めむかとひそかにおもふ
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評）
なりゆきに任せるというか自然でいいという思いは深い。 |
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○
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時雨紫
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指先の痛みを絆に二人して断酒の決意を試みし夕餉
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評）
いま少し二人して心を合わせられる幸せを噛み締めて詠うべきと思うが、これも生活詩の範疇か。 |
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○
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栄 藤
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短歌を載せ金取る電話に「稿料を寄越せば売るぞ」と言へば逃げたり
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評）
これも今の歌だ。ちょいとあらわになったが現実の問題であろう。 |
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○
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Heather Hesth H ＊
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狭き家に籠りて歌に縋りいる友が海外避暑をする時
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評）
ときの過ごし方はいろいろある。こういう充実もある。いくらか誇らしくそしてさびしい。思いがよくでている。 |
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○
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茫 々
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独り居の老いたる尼が身を病みて火を出しみ寺と供に焼けたり
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評）
原作「尼は」を「尼が」とした。素材負けをどう工夫するかがこういう作品の成否にかかわる。 |
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○
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石川 順一
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執拗に左の奥歯が痛みくる知覚過敏と思ひガムかむ
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評）
原作は「痛むのは」であったが、上記の如くにして取った。説明的になるのを避けるためである。本当に知覚過敏かどうか、本格的な病の前兆の場合がある。調査されることだ。私の場合は心筋梗塞だった。 |
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○
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くるまえび ＊
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一日の花を終えゆく酔芙蓉くれない深むる萎める前に
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評）
「終えたる」を「終えゆく」とし「深めし」を「深むる」としたこれでじっと見ている作者であることが伝わる。これでも「終えゆく」と「萎める」とが重複感があるので更に推敲が必要となる。 |
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| ● |
寸言 |
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選歌後記
写生というのも結局、凝視して対象をみることに盡きる。政治詠とか社会詠でも結局は対象をよく洞察し、深くものを思うことが対象を凝視していることになる。自分の対局にある考えにも立って洞察することも肝心であろう。考える基準はヒューマンな思いであることは当然である。
大井 力（新アララギ選者・編集委員）
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