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今月の秀歌と選評



 (2015年7月) < *印 現代仮名遣い>

米安 幸子(新アララギ会員)



秀作



若山 かん菜 *


ドドーンと祭りの音が誘う夜花火の前にビル仁王立ち
ボーカルの後ろで見えぬドラマーのリズムが揺らす私の心


評)
なんと魅惑的な歌であることよ!一瞬を捉えて力強く比喩も体言止めもことさららしく響かず成功している。初稿のままである。



雲 秋


鳥海の雪解の川も初夏なれば代掻く水の流れて濁る



評)
折柄の代を掻く田んぼから流れ出る水に、清冽な雪解の川の水が濁を帯びるのであろう。初夏の鳥海山麓の風景と営みが想像されて、印象的な一首である。



笹山 央


帯一本織り上げられしを二人してためつすがめつ検してゐたり
草木染の色はインクで出し難し試行重ねていまだ決まらず


評)
織物工房に働く作者。当事者の日常的な作業の中に作歌の素材を求めて、生き生きとした歌が生まれた。引き続き励んでいただきたい。



金子 武次郎


ビル脇にオオイヌノフグリ群れ咲きぬわずかに残る角の空き地に
彼の地震(なゐ)に起きし地割れにノボロギク今年は小さき花つけてをり


評)
彼の地震よりもう四年が経つのに復興は一向に捗らない。植物は、わずかな空き地にも地割れしたままの土にも花を咲かせる。その生命力に目をとめ、心を寄せて詠む。




この夜更けザボン剥きつつしみじみと亡き祖母を恋ふる母かと想ふ



評)
漸く母君の心境に至る作者。ザボンの生る故郷に今も健在の母君を、恋しんで抒情性に富む。


佳作



波 浪


追ひ掛けてくる追ひ掛けてくる老いが今度は食思を奪はむとする
案ずると思へば妻に告ぐるなく食欲不振にわれは堪へをり


評)
短歌に親しめば、もらす嘆息も七五調になるのであろう。何はともあれ、日々お大切になさいますよう。



ハナキリン


ゴム手袋を外して腕をまくりあげまだ温かき風呂を洗いぬ



評)
ゴム手袋を外すという、一見詩には縁遠い日常の動作をことばにして、弾みのある作品となった。



石川 順一


蜘蛛の糸木椅子の背にも電灯の紐にも張りて主(ぬし)は動きぬ



評)
主を人と読むか、吾と読むかで評価は分かれよう。「蜘蛛に生まれ網をかけねばならぬかな」という虚子の句を心に、糸を掃って歩く作者を思った。



紅 葉 *


役員へ説明終り新たなる宿題抱えるも取りあえずよし



評)
没細部ながら「宿題抱えるも」という具体にゆきつき取りあえずよしという感じのある結句が生きた。



岩田 勇


なす事なき一人居なれば昼下がり三たび読むなり「本能寺の変」
古稀過ぎて七年振りのクラス会に誰もが病を抱ふと告げり


評)
三度も読む「本能寺の変」には、今を生きる作者の心を動かす何かがあるからだろう。後の歌にもあるように、病を嘆くばかりの同級生達とは違う自負心が窺える。



鈴木 政明


付き来るは誰かと吾に問い糾す君は部長に栄転したり


評)
「部長へと栄転の君付き来るは誰かと吾に問い糾すなり」とすれば、作者の気持ちも伝わることに気が付いた。至らなさをおわびして、お許し願うばかりです。



時雨紫


新聞をくしゃくしゃにせし初孫の黒き手のひら色紙に象る


評)
這い這いとともに、何でも触れて口にしてみる、好奇心いっぱいの初孫さんを、精一杯応援する作者。双方に喜びがあふれていて、微笑ましい様子がみえる。



ハワイアロハ


パソコンを見ながら電話しているな間延びしている息子の返事は


評)
今の世情を捉え、上手に短歌のリズムにのせていて面白い。



くるまえび


初夏の陽に残雪眩しき千畳敷ケーブルカーにて八十路の我も


評)
初夏というのに未だ残雪をいただく日本アルプス。長年に亘りハワイ在住の作者の里帰りでの感懐を詠まれた。



夢 子


泣き止むを二人手を取り我慢せし若き日の冬の夜の長かり


評)
初めての育児は、八十歳の今も鮮やかに思い出されてご夫婦の楽しい語らいが想像できる。


寸言


今月は途中までのお二人も含め、多彩な作品に出会え、改めて学べたことは幸いでした。参考までにとの思いから、折々に感じたままを書きました。繰り返しになりますが最後までお付き合い戴き感謝しています。この後も、みなさまにとりまして短歌がよき友となりますように。

米安 幸子(新アララギ会員)



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