短歌雑記帳

アララギ作品評

 2012年12月号選歌後記    三宅 奈緒子

 今月も集Vに推したい作品が多く、惜しみながら割愛したものが少なくなかった。

後の日の悲しみならず忘れはしない八月二十九日過ぎたり
われのみの向日葵忌なり八月はやはり寂しく過ぎゆかむとす
                     高橋 一子

 この一連は昨年八月逝去された扇畑利枝氏への追悼歌である。この作者は中々に鋭い感覚の持主ながら、表現に独特のものがあって時に受け入れ難い場合もあるが、この追悼歌一連はそのまま受容できるように思う。前者の第三句を口語調にしたのが妙に利いている。後者の「向日葵忌」は作者が名付けたものであろうが、明るく大らかであられた夫人のイメージにかなうものではなかろうか。

爽やかな空気流るる早朝の園に夕べの憂ひ薄るる
身をまるめくるくる回るラッコ見て父と笑ひきけふはひとりか
                     舟橋恵津子

 日常のささやかな心情の照り翳りを素直にすくい取って詠うのも一つの行き方と思うが、比較的年若いこの作者の作品にはそうした微妙な哀歓が出ていて心惹かれるものがある。

畦一面に朱(あけ)の浄土の如く咲く曼珠沙華直(ただ)にひかりあつめて
くもり日の空気ふるはせ蜩の鳴くこゑしばし耳をはなれず
                     大矢 稚子

 曼珠沙華の花、蜩のこゑ、歌材として特別のものではないが、夫の病を長く看取る作者には特に鮮やかに強く印象づけられており、それが読む者にも直接ひびいてくるように感じられる。



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