短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」


○新しき原子エネルギーに試さるるをモルモットの如く待ちてはをれず  鈴木貞治

【小暮政次】「試さるるを」と言う見方、「モルモットの如く」と言うあらわし方は浅い。しかし、私たちの共通の気持ちをある一角から現していて、今月の此欄にめずらしい様である。

【宮地伸一】この歌は、僕は見落としていたが、前評を読んでなるほどと思った。しかし「待ちてはをれず」は特に軽くてまずいのではないか。もっとも表現の巧拙と歌そのものの訴える力とか魅力とかいうものとはいくらか違うし、前評の「共通の気持」をある程度表わしているとは、確かにいえるであろう。

○つかの間の逢ひにも再軍備などをいふさびしき時代にわれら生きつつ  伊藤安治

【宮地伸一】恋愛と再軍備の問題とは、まさに並行し得ぬ対蹠的な方向にあるものであろうから、こういう角度からの詠嘆が当然もっとあってよい。この歌はおとなしく素直な詠みぶりで同感できるが、「さびしき時代にわれら生きつつ」はやはり形式内容とも安易で弱々しく迫る力がない。この下句の概念風な表現を避けて、もっと直接に切実に表白するべきだったと思うが、それにはなまぬるい恋愛、なまぬるい再軍備観ではだめだという事になろう。

【小暮政次】再軍備を警戒しながらの恋愛を取上げているのは、見るべきところだろうが表現が、概括的、類型的なので工合が悪い。

昭和27年11月号

 (漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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