短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」


焼け出されし日雇には物言はずまぬがれし教育委員宅に見舞客多し
                   長田 菊江
パチンコする教育委員に付添ひて頻りに玉をみつぐ校長あり
                   大久保 福太郎
吾が(さと)にデーゼルカーが配車され手柄争ふ代議士二人
                   中川 尚志
皇軍を復活させよと主張する元近衞騎兵たりしあのハゲ
                   柳澤 健一
忙しき歩を止め聞くに艦隊を作れとおつしやる芦田元首相
                   上田 書雄

 周囲の情勢に反発して、アイロニーを盛った作品は毎月多く、時に胸の透くような痛快でおもしろいのも見られるが、今月は右の数首が目立った程度であった。この類のものは、所謂単なる冷笑やくすぐりに終っている場合も多いけれど、歌う事自体に於いて又読者はそれに接する事に依って、何となくカタルシスのようなものを感じ、共感しあう所に意味があるのであろう。此処では作品としての完成度よりは、作者の批判精神そのものが一首の支えとなって来る。

吾が街を軍都と呼びて讃へゐる前自衛長官Kを死ぬまで憎む
                   黒葛原 香
コロ島を船はいでたればいまは誰も己が声にて日本語をいふ
                   田崎 九二夫
再軍備は国民の声と言ひ切られ寒々と雪に巻かれて帰る
                   小国 孝徳

 これらにはアイロニカルな響きがなく、いはば正攻法で歌っているのだが、それだけ却って弱い所が目立つように思われる。

昭和30年7月号

 (漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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