短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」


閉づる目より涙とまらずゐる我の布団をなほし黙し帰りき
                   中村 道子
素早く汽車の席ゆづりしは蹇の吾に背き人妻となりし君なりき
                   追立 五男
二十年過ぎしかば悔いも淡々と昔の人をテレビにて見る
                   鈴木 貞治

  こういう小説的発想のものも数多く目についた。作者が己れを主人公の位置に設定するような表現法が、甘さを伴って一種の弱点となっているのは否めない。

目を閉ぢて祈ればイエスが寄り給ひ光りは音をたててつつめり
                   神山 南星

 クリスチャンの作と思われるのも何首かあったが、この一首に最も感銘を受けた。「音をたてて」あたりはくどいが。

あさ朝の霜きびしきけれど菜畑の茎立つ一本に心和ぎけり
                   白石 知子

 終りに語法の上で一言。「きびしきけれど」は「きびしいけれど」という口語からの類推による錯覚的文語であろう。こういう表現と、それを許して取った選者の態度に私は興味を持った。

昭和30年7月号

 (漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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