短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」


高空のはつかくれゐとざし来て曇りは湖(うみ)に圧したたまりぬ(短歌研究9月号)      山本 友一

 【宮地】他の作より北海道摩周湖を詠んだ歌である事がわかる。この作者のものは調べがのびて重々しいところがあり、外光を単純に描写したものには受け入れられるものが割に多いように思う。この作も新しい内容ではないが、同感できる歌い方である。「高空のはつかくれなゐとざし来て」のような表現はアララギの先進が既に歌い古してはいるがこれはこれでよいだろう。ただ下の句の「曇りは湖に圧したたまりぬ」という言いぐさはあるまい。

 【五味保義】「はつかくれなゐとざし来て」も「曇りは湖に圧したたまりぬ」も、意あって手腕到らずという所であろうか。」このままでは印象不明確な歌というより外なかろう。

恐れつつ告白せし日のうす笑ひゆきたる妻は心広かりき(創作9月号)             平田 春一

 【宮地】「うす笑ひ」とはいかにも俗な表現だ。それに「ゆきたる妻は心広かりき」という解釈をつけ加える必要もないところだろう。妻に恐れつつ告白した事を妻の死後に思うというのは物語的になるのを避けて歌えば十分歌になり得る境地であると思う。しかしこんな平俗な歌い方では、作者の真実の心が少しも響いてこない。とにかく「うす笑ひ」などという語を平然と使う神経ではだめだと思う。

昭和三十七年十一月号 

 (漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



バックナンバー