短歌雑記帳

宮地伸一の「アララギ作品評」

 七月号作品評 其一   生井武司 宮地伸一  (六)

烏賊の卵産みつけしむと黄楊の枝を海に沈めて島の貧しく                  小谷 稔

 [宮地] この光景は、私も作者と共に見たので同感される。結句「島の貧しく」によって生きた歌である。「産みつけしむ」は、やや不熟である。「産ましむるために」ぐらいでよくはないか。
 [生井] 実際を知らなくても共鳴できる作品である。
「黄楊」は「つげ」とよむのであろう。前評の「産ましむるために」の「に」を「と」とした場合も考えてみたが「に」の方が順直か。

めぐりゆく東慶寺墓地の下陰に墓誌に並びて東畑美禰子の墓                 組橋ひさ子

 [宮地] 東慶寺は鎌倉の例の縁切寺である。東畑美禰子さんは、最近までアララギに出詠していたのに、このところ歌が見えないと思っていたら、ここのお墓に御主人と一緒 に入って居られた。
さてこの歌は「下陰」という用語が的確でないように思う。「めぐりゆく東慶寺墓地の」という上の部分とびたりと合わない恨みを感ずる。
 [生井] 三句「下陰」は木の下のことだろうが、焦点がしぼりきれていないようである。やはり一考を要するのだろう。                            

(昭和61年9月号)

(漢字は新字体に、仮名は新仮名遣いに書き換えました。)



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