短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年4月号選歌後記    三宅 奈緒子

たのめなき齢の日々を重ねきてやうやくむなしひとりの身過ぎ
                     鈴木 功

 たよりない一人暮しを重ねての感慨。下の句の「やうやく」が利いている。

助詞ひとつ据ゑ替へ採りくれし恩愛も君亡き後の悲しき一つ

 「君」は今は亡き選者であって、扇畑氏か宮地氏か。助詞一つで作品が生きることを、その選者への思いに重ねて詠っている所がよい。

身をいとひいそしみ励み生きゆかむ命の末のひと日ひと日を

 老いての一人暮しとはいえ、一日一日を大切に生きて行こうとする気持を重々しく詠い上げていて読者もひきこまれるものがある。

休職を願ひ出でしと告ぐる声抱へしストレスもう耐へきれぬと
張りのなき声になりしはいつよりか汝が苦しみを思ひもせざりき
                     金野 久子

 現代社会のあちこちに見られるであろう情景ながら、作者はおのが子の問題として切実に捉えている。また、ただ単に甘くならず社会性を持たせているのがよい。

コロンブスの生家はいまも残りゐてオリーブの古木茂れる中に
                     佐藤恵美子

 新鮮な題材がいきいきと捉えられ、注目される。くどくなく、簡明な表現がよい。

鯖雲の間(ま)に間にミラノの街みえて帰宅の刻か車列なる

 現実風景と旅情とがとけ入って何か清新な思いを誘われる。旅行詠にも作者の目の新しさが常に必要ということであろう。



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