短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年5月号選歌後記    三宅 奈緒子

やうやくに固定の取れて出でし朝右手ぎこち無く所見書くなり
常の如出づる通りに霧こめて信号も人も影朧なり
                     宇野八千代

 作者は女医として働いておられるのであろう。そうした中で手に傷を負っての不自由さをありのまま素朴に描写し、かなりの年齢であろうと思われるが、しっかりした目で周囲を捉えている。頼もしい職業詠といえるだろう。

暗み来し道場に一人弓を引く雪の明かりに気を鎮めつつ
晦日を弓道場に集ふ友と雪眺めつつ語るこの一年を
                     林 勇二

 運動を題材にしたものの中でも弓道は今は珍しいのではなかろうか。弓道の雰囲気が年末の雰囲気にぴったりしている。他作品も弛んだ日常詠でない所がよい。

妻とここに弁当分かち食いしことも蘇りくる過ぎし十年
あるひとがと声を落して言ふ聞けば恐ろしきまで人を暴けり
                     小島 正

 一連いかにも自然に詠われているが、何か人生の厳しさがほの見える感じで、薄手の日常詠に終っていない所がよいと思う。



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