短歌雑記帳

アララギ作品評

 2013年6月号選歌後記    三宅 奈緒子

メルトダウンの兆候二度も見逃せり呆然と見る検証の映像
予言のごと原発への危惧詠みたりし『青白き光』よいま心慄へ読む
                    清野 八枝

 今年、東日本大震災三年となってテレビ、新聞などこぞってその件をのせたが、この作者はNHKの特集、また我々の仲間である佐藤祐禎氏の歌集などを材料に真正面からこの問題にぶつかっている。
  知的といえば知的な処理であるが、作者独自の情感がにじみ、読者の心をひきこむ所がある。

狩るものと狩らるるものが共に憩ふサバンナの午後の平和なるとき
生も死も知らざるままに生きてゐる自然の中の生きものの形
                    前澤 宮内

 この作者には外遊詠が多いが、それは所謂観光詠ではなく、この例歌のような我々自身をふり返らせるような一種哲学的な味わいが目立つ。
  このサバンナの一連もその意味で面白い。

術後二年の転移なき夫よ再びの桜吹雪に杖つき歩む
桜吹雪にみ寺しづもる山かげに杖つく夫を誘ひて来ぬ
                    稲生 みどり

 術後の夫との日々が桜散る静かな自然の中に描かれている。とりたてて夫婦の心境を描こうとしていないが、自然の雰囲気と共に静かに感じられて来るのがよい。



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