作品紹介

若手会員の作品抜粋
(平成16年1月号)  < * 新仮名遣>

  東 京 八重田 幸子 *

お互いにきっかけ逃した仲直り言えないままの言葉の重さ


  東 京 坂本 智美 *

「日本人に親近感持つ人六%」中国の世論調査に私も同調したし


  東 京  臼井 慶宜

竹林は愚直なまでに伸びてあり葉の間(あはひ)より空を見せつつ


  東 京 小川 裕加子 *

悪倒す正義の味方現れてーそれはおとぎの国のお話


  東 京 月井 麻美 *

僕たちはここにいるよと言うように木々は緑をさらに強める


  東 京 松川 秀人 *

書き終えし発表用の原稿を声嗄れるまでひたすらに読む


  宇都宮 秋山 真也 *

生まれては消える自然の摂理にはナンセンスなどありえないのだ


  東 京 藤丸 すがた *

カップ麺の三分を待ち待ち切れぬ空腹が僕を成長させる


  川 越 小泉 政也 *

親銀行員が住宅ローンを勧誘す童顔二十三歳の新入り僕に


  愛 知 高村 淑子 *

栗畑の続く故里の道を来ていつもよりあなたの背筋伸びている


  京 都 下野 雅史

死火山の風化せし岩砕けゐて割れ目に芽吹くオヒアの木立


  大 阪 浦辺 亮一 *

空気を入れたタイヤの軽さに誘われてぐるりと土手を回り道する


  倉 敷 大前 隆宣 *

秋となり日ごとに強まるキリギリスの声早く定職に就けよときこゆ


  仙 台 矢吹 美香子 *

君よりも早く寝ようと決めたのに今日も静かな寝息聴いてる


  京 都 池田 智子 *

幼き日なかったホクロ背にふたつあるねと触れるやわらかな指


  大 阪 大木 恵理子

社会保険値上げ通告書にすべもなしわが安月給に容赦無き額



(以下 HPアシスタント)

  札 幌 内田 弘

太き蕗を傘となしつつ雨の降る志文内峠を茂吉は行きしか


  横 浜 大窪 和子

小さき旅終ふれば次を企てて仕事の暇の夫慌し


  島 田 八木 康子

ゴール裏に声を限りの九十分引き分けてこの充足は何


  福 井 青木 道枝

ああ水を流したやうな今日の空よろこびは北へ向かふ車窓に


  東広島 米安 幸子

酔ひて言ひ言葉返して遠慮なき二人に親しむ今日の宴に


選者の歌


  東 京 宮地 伸一

張学良も宋美齢も死す少年の日より心にとめゐし二人

親父(おやぢ)の遺伝百パーセントと言ひしかどこの乱雑には我も及ばず


  東 京 佐々木 忠郎

発行所が移りて一年目の朝(あした)紺屋町の方に向きて拝(をろが)む(一月八日)

きつちりと心をこめて丸を記す良き歌に逢ひしことのうれしく


  三 鷹 三宅 奈緒子

灯ともせる大き客船ゆるやかに夜の湖(うみ)わたれり昨日も今日も

右腕を失ひてなほたぎつこころ絵筆左手に人は描きし


  東 京 吉村 睦人

姫島に今し船の出でゆきて桟橋より人らの戻り来るところ

古塔あり陰陽神祀る祠あり伊美別宮社の杜をめぐれば


  奈 良 小谷 稔

子規の歳の二倍を生きて松山に子規を語れば心の奮ふ

宇和の海霧の閉ざせば大いなる赤榕の葉群に降る雨を聴く


  東 京 石井 登喜夫

目ざむればドラクロアの絵の雲の色近づきてくる山並の上に

商工会対商工連の事を聞けりこの町にも複雑なるものがあるらし


  東 京 雁部 貞夫

東京の個展はこれが始めてと握りし大き手農の手なりき

沙留川に傷つける鮭見し秋九月それより秋味食ふこともなし


  福 岡 添田 博彬

若き惑ひ語れるなかに黙しをりきはにかむ如き笑まひ浮かべて(住田和二氏追悼)

妻君を憎む歌一首今少し待てよと告げて採るをやめたり


  さいたま 倉林 美千子

心遠き一人を思ふ貰ひたるホトトギスは月夜を乱れ咲きつつ

若き女性のフロントの声日本人と知りて安堵の抑揚となる


  東 京 實藤 恒子

氷上の舞は終末に近づくか地震プレートの上の日本の

「五年秋七月十四日河内国地震(なゐふる)ふ」日本最初の書紀の記録は


(以下 H.P担当の編集委員)

  四日市 大井 力

生くるもの殺めてつなぐわがいのちけふは鯊釣る風吹く土手に

何の会話がきつかけなりやお互ひの身辺整理に話及びぬ


  小 山 星野 清

伝へらるる新ウィルスに備へむと繋ぎてたちまちパソコン侵されぬ

天は自ら助くる者を助くると己れに言ひて今日も励ます

先人の歌


  近藤 芳美  歌集 『埃吹く街』


「雨の匂ひ」


いつの間に夜の省線にはられたる軍のガリ版を青年が剥ぐ

世をあげし思想の中にまもり来て今こそ戦争を憎む心よ

苦しみし十年は過ぎて思ふとき思想偽るにあまり馴れ居ぬ

吊皮に皆モノマニヤの目付して急停車毎よろめきてをり

かぎり無き蜻蛉が出でて漂へば病ひあるがに心こだはる


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