短歌雑記帳

アララギ作品評

 2015年1月号
 〔選歌をやめるにあたって〕      三宅 奈緒子

 本誌の創刊時から続けて来た選歌を止めざるを得ない立場になり、想いは様々に私の内をかけめぐっている。私は今の所、選歌自体が不可能になったという程の衰えは感じていないが、ただ一定のスピードが要求される現在、速度の点で他の人々にかなりの迷惑をかけていることは否めない。そういう立場から考えると、周囲と争ってまで現在の立場を守ろうとは思えない。ここですっぱり今の立場を離れて外部から会員の方々の作品を見守りたいという気持になっている。

 今、お別れに当って皆さんに言いたいのは、一度苦しんで創り上げた作品を大事にしてほしいということである。採られなかったものも一寸表現を工夫するだけで生きかえることもあり、同じ歌材でも何かの折に又新たな命を得ることもあろう。又、歌集などにまとめる場合、ちょっとした作品が案外味をもって他を助けることもある。勿論作品の中には、時をおいて見ると、その粗さや軽さが目立ってくるものもあろうし、それはそれで、自身納得出来ることになろう。私自身も数々の経験があるが、一度自分の生み落した子を無下に捨ててしまうのは惜しいことである。今でも思い出すのは、病重く入院するに当って、時の選者であった私あて、病院の薬包紙に時の心境を三首送って下さった人のことである。その方はそのまま亡くなられたが、最後の歌を選者に見せようとして下さった心は忘れられない。



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