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如月作品集 つくばマラソン 渋沢 たまき 五日前太もも裏を痛めたり出場するか DNSか 走るか否か迷ひつつ貼るテーピング無風のつくばの青天見上ぐ 痛みとの戦ひになるかこのレース靴紐結び心は決まる ゴール前の坂に競ふは顔なじみ気付けば我を追ひ越し始む 負けられぬ下りにスパートかけ走る足の痛みはいつか忘れて
青森県の歌人 病む犬 竹洞 早苗 糖尿病に視力無き犬ひざに抱き今朝も目薬さしつつ励ます 器叩き水欲る犬はヘルニアにて同じ病む身の吾はかしづく 目が見えず歩けぬ老犬なほ吠ゆる何処が痛むや背を撫づるのみ 何をしても偉いと犬を褒めちぎる吾が子もかうして育てたかつた 糖尿病の犬に犬に小児の紙襁褓あててより娘は安眠を得ぬ
睦月作品集 「楽 し」 岩倉 幹郎 「紋平さ」に樹齢百年の渋柿のありて名付けし「紋平柿」と 紋平柿の醂(さは)した柿を五個買ひぬ能登の浜辺の道の駅にて 椨(たぶ)の木は「つまま」とあるに万葉集持ちて訪ぬる能登の社(やしろ)を 獅子舞の御囃子を聞き中能登の蟹釜飯を食ぶるは楽し 中能登の太郎右衛門の濁(どぶ)ろくと鰤の刺身で飲み居る楽し
「蛇と人と」 谷 夏井 (「新アララギ」選者) 娘の元に夜ごと通ひし麗しきをのこは大神(おほみわ)の白蛇の化身 三輪山の白蛇様を人は崇め今も社に生卵供ふ アダムとイヴ唆してエデンより追ひしは蛇と聖書に記す 古より人と関はり人を惑はす怪しき性負ふ蛇といふもの 巳年生れといへども吾は迷ふなくひた歩みゆくこの歌のみち 「消ゆるなく」 金野 久子 新しき年に願ふはただひとつ戦争のなき平和な世界 空襲の炎逃れし四歳の記憶まざまざ消ゆることなく 戦火浴び手つなぐ家族と逃げ延びき今は我のみ命ながらふ 幼き日わが名の意味を問ひたれば父は言ひたり久しく生きよと 林道にてとぐろ巻く蛇に出遭ひしもわが忘れがたき記憶のひとつ 「おなじ干支」 阪井奈里子 おなじ干支三人(みたり)いる家佳しと知る少女の日にてわが家に三人 午年に生まれたかったと巳年われ幼く思いきだれにも言わず 母われの干支は巳の年母われとおなじ巳年に長女生まれぬ うら庭に実をうずめしも忘れいし枇杷は木となり白き花咲く 定年に職をしりぞき自由得て近山遠山日々のぼりたり 「ブロンズの蛇」 佐藤 淑子 ブロンズの蛇の飾りに触れながら七度目のえとの春を喜ぶ 庭に棲む蛇や蛙はいづくへか静かに押し寄す巡りの変化 子を育て家を守りて健やかに過ぎこし日々のしみじみ愛し 十一年かけて読み了ふる『古事記』なり女神の誕生左眼と知る 日常に生るる不具合恐れずに今しばらくは溌溂と居む
滋賀県の歌人 「友のライン」 堀江登美子 婦人衣料商ふ友よりライン届きぬ冬物の売り出しに是非に来てねと 手の甲の紫のまろき打ち身あと何時につけしや今日を思ひみる 腰に付けゐる万歩計今日の少なき数値思ふにひと日もの書き過ごせり 妹の胸の痛みに苦しみぬ検査の結果は胸骨骨折とは 富貴草コップに活けて真ん中に黄色鮮やかなる石蕗挿しぬ
上記が以下の要領で開催されます。 日時:*歌会と懇親会 3月9日(日)12時40分〜 *明日香吟行 10日(月) 会場:ホテル花小路(はなこみち) 近鉄奈良駅徒歩二分 選者:雁部貞夫先生、今野英山先生、谷 夏井先生 申し込み:はがきに詠草2首、懇親会・吟行の出欠を明記 費用:歌会6千円、懇親会8千円、吟行8千円 宿泊:ホテル花小路へは「奈良特別歌会の宿泊」と告げて下さい。 連絡先の詳細は、新アララギ1月号の裏表紙に
滋賀県の歌人 ロシアンルーレット 皇 邦子 手術後のわれの視力は変若(をち)かへり仕舞ひおきしすみれ色の眼鏡取り出す 新聞広告のQRコードにスマホ当て立ち上げて聴く「琵琶湖周航の歌」 コレクションの切手いく種(いろ)も貼り足せる葉書もどりぬ一円不足の付箋 炊き上げし唐辛子にとびきりの辛辣ありこはごはつまむロシアンルーレット 闇の丘にあかあか灯る一軒家連想は昨夜(よべ)観し「天国と地獄」のシーン
神無月作品集 地震後の祭り 砂山 信一 本殿に御輿を向けて祝詞上げ神渡しするに我ら額づく 地震に崩れしわが町の祭りに若きらがキリコ担ぎて境内練り行く 境内を練り担ぎ行くキリコの上入道雲が空高く立つ 特設の漁港の舞台に若き二人早船狂言声上げ演ず 若き二人の狂言行ふ漁港にて六艘の船旗立て明かり点く
作品15首 雁部貞夫 俎ー(まないたぐら)の登攀 江戸の世の谷川岳は「俎ー」毛の国の人かく呼びゐたり 「トマの耳」の西へ張り出す岩ぶすま畏れ仰ぎし吾若くして 摺鉢の底よりじわじわ攀ぢ登る岩稜帯を突破するべく わが友の平吉たくみにリードせり猫の如くにその身ひそめて 三点支示は教本通りの登り方足場なければ友の肩借る 岸壁の表土はもろし躊躇(ためら)はば真つ逆様ぞ奈落の底へ このルートはザイル使ふを止めにせむ一蓮托生われら避くべし ひと叢の灌木あれば取りすがり煙草一本分ち喫(す)ひたり 股の下覗けばわれらの黄のテントはるか奈落の底に小さく 万が一堕ちても死ぬとは限るまい脚下に光る滑滝(なめたき)の水 この友と登攀かさねて幾年月命あり「鷹の巣」ルートを登り切りたり 上越の風に吹かれて大休止葉巻(シガリロ)取り出しゆつくりと喫ふ 俎ーの岩尾根たどれば「トマの耳」小さき祠(ほこら)にコニャック献ず 「耳二つ」はまことの谷川岳に有らざりと武田久吉博士の力説むなし 谷川岳の名を失ひしはむしろ幸(さち)「俎ー」のよき名を永遠(とは)に伝へむ
宮崎県の歌人 長き交はり 小池 洋子 夜遅き固定電話は師の訃報「父への文見てお知らせまで」と 穏やかに吾が反抗を諭さるる師に黙しゐき分からぬものかと 年賀状の返礼に師の「ありがたう」が最後かながき交はりなりき 今やれて今やりたきをやるが良し日帰り旅に友を誘はむ 暁の冷気にひととき草取るを吾の一日の務めとしたり
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