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この「エッセイ」は新聞掲載の要約です。
『土屋文明全歌集』―歌の宝庫 横山 季由 補遺を含め、12、345首が収めてある。知的で即物的、散文的に詠むときは『山谷集』『六月風』 『小安集』など、抒情的な歌では『ふゆくさ』や晩年の作、「生活即短歌」の生活詠は『山下水』『自流泉』等 が参考になろう。『六月集』から『韮菁集』は写生説の実践で、現実主義に基づく社会詠が鏤められている。 これはアララギの系譜に繋がる人らの説を整理し直し、アララギの主張として完成させたものだ。更に 『万葉集私注』全二十巻からも多くのヒントを得られる。また、万葉植物等、植物にも造詣が深く、植物詠を なす時の助けになった。百歳まで生活詠を続けたので、これから老後を迎えるにあたり参考になろう。 この全歌集はまさに歌の宝庫だ。
霜月作品集 秋の日 佐藤 直子 近づきしわれにいつとき寄るとみせ鉢の金魚は身をひるがへす 思はざる庭木の影を映し出し夏の雷光一瞬に消ゆ 鉄線のほぐれはじめし紫が窓にかげする梅雨の曇り日 インバウンドの波をかき分け身を躱し猿沢池にたどり着きたり 秋の日に水面に光る五重塔世に戦争のあると思へず
今月の巻頭作家 作品15首 「過去と未来」 今野 英山 草餅の店に長々ならぶ客その先奈良町日本はそつち 朱雀門の不老長寿をささへる技術見ることのなき未来が埋まる 紅白の梅のトンネルぬけ出でて過去と未来の塔並び立つ 西塔を建てし棟梁西岡の『木のいのち木のこころ』沁みる言葉だ 西塔は東棟よりも高くする千年をへて木は縮みゆく モノクロの塔極彩色の塔とならびゐてぐるぐるめぐる千三百年は モノクロとなりし古塔のシルエット時の流れの焼きつく印画紙 うす暗き堂宇のなかに千余年武器もてはべる将十二人 枯色の十二神将に色をつけ浄土の世界おもひてみたり 伐折羅(ばさら)大将パンク野郎の伊達をとこ金銀よろひて赤髪立てる レンガ色の築地にそひて小さき門くぐれば苔生ふ秋篠の寺 訪れる人も少なく奥まりてさびしき人のみ引きよせらるる わづかにも小首かしげる伎芸天素直だけでは世はもたぬらし 大火にも地震にも遇ひて首ひとつほほゑみて残るこの伎芸天 スリランカに友の僧建てたる大仏のするどき眼にみな慕ひくる
埼玉県人の歌人 濃 密 萩原 千也 濃密な時間と言へばさう言へる妻の介助を優先せるは デイケアを終へ来し妻が玄関に立ちて躊躇ふ入りてよきかと トイレにも其の都度つきそふべしと知る妻のしくじり防ぐためには 手渡しに口に入れよと指示せねば妻の服薬済まずなりたり やがて共に暮らすは無理か自らが為すさまざまを意識せぬ妻
神無月作品集 つながり 宇野 一夫 よき歌を結社わたりて集め編むアンソロジーは二十冊超ゆ 幾結社数なき歌の紹介にたづさはり来し歳月は宝 伝統に新感覚に求めつつ今の世のさま詠みつがむとす 詠みぶりは古しといへど芯を詠む迷ふことなしこの道をゆく 『珠洲の海』の大き功績を知りたればこころある人に慎み贈る
「新アララギ」第二十六回全国歌会は、前回と同じ東京都江東区の 都立清澄庭園大正記念館において、「令和七年七月五.六日の両日に 開催されました。 (参加者五十二名) 参加者全員の投票により次の方々が「全国歌会賞」を受賞されました。 「天賞」 船橋恵津子氏 思ひ出は廻る季節に淘汰され君は大きな月となりたり 「地賞」 片岡 和代氏 確かなる死を前にしてニュースには「救出」といふやさしき言葉 「人賞」 鶴見 輝子氏 震洋の基地へ続くか手掘りせしトンネルの先に海の輝く 房総鵜原 当日はHP出身の方々と、担当者の方々、能美からいらした小田利文氏 と和やかに顔合わせをいたしました。来年も多くの方々とお会いできるのを 楽しみにしております。
長月作品集 平和をつくる 大林 明彦 点点が一線となり大佐渡の夜(よ)の沖焦がす烏賊釣火見ゆ ガザに直ぐ食べもの送れニッポンよ連帯すべし傍観するな 力(りき)みては戦争国家と成り果てし米露を超ゆる天帝出よ 小つぽけな破滅の星に長らへし人類最期の日日を楽しめ 平和呼ぶ歌をうたはめ秋風裡ジョン・レノン良いねボブ・ディラン良いね *大林氏は先月逝去されました。心よりお悔やみ申し上げます(うた新聞より)
雁部氏の歌の数字部分は 「悼」の旧字体、倉林氏のは「蝉」の旧字体です。
特集 わたしの八月十五日 掲載順 平成二十八年八月十五日東京にて 雁部 貞夫 憲法軽視の明らさまなる指導者を選ぶといふかナチスのごとく 敗戦も原発事故も省みず庶民の「英知」またまた不発 お言葉は淡々として短かり象徴論議のかしましきのち 「海の日」も「山の日」もある国にして休日ならず終戦の日は 黙禱ののちの己は何なさむとにかく剃るべしこの無精髭 蟬の声 倉林美千子 何の音も遠くなりふらふら並びゐき栄養失調児われ五年生の夏 分教場の庭は湧きたつ蟬の声玉音放送には多き雑音 玉音放送半ばに泣きくづれし先生を学童疎開児われら目守(まも)りき 布団抱きて二階より庭に飛び降りよ森に隠れよの訓練せりき 東京空襲気になれど先生はここに居る親の迎へを待てと言はれき 同い年 米安 幸子 「折りづるの少女」とわたし同い年父母との疎開に惨状まぬがる 核廃絶戦争反対の念ひのみにドーム遺産化の署名集めき 悼 民喜の甥時彦氏二首 迫りくる熱き爆風から逃げのびし民喜のひと日を君と辿りつ 『夏の花』の手帳(ノート)をまもり平和共存を願ひつづけて果つ 核を用ひず平和共存を打ち立たばトランプあなたにノーベル賞を 思ひ出すこと 鶴見 輝子 終戦の記念日にして音立てて降りしきる雨 終日止まず 東京を焼く火の色が下館(しもだて)の夜空に映えし二歳の記憶 辻君は辻政信の子なんだよ転校生われに友 耳打ちす 防空壕 口あけてゐし小学校「原爆の子」を連れられて見き 学童の読み上ぐる平和への誓ひ わけても今日は胸に沁み入る
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