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○ |
東 京 |
宮地 伸一 |
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母を殺ししニュースのあとに子を殺しし母の記事読む何といふ朝ぞ
古書店に百五円なる古語辞典買ひしを喜ぶ我まだ老いず |
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○ |
東 京 |
佐々木 忠郎 |
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還暦を迎ふる年に主夫となりし息子は子と三(み)たり八(や)月過ぎしか
月に一度が二度となりしを哀れみぬ妻亡き息子わが家に泊まる |
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○ |
三 鷹 |
三宅 奈緒子 |
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十二年のつひの一年が透明なる記憶となりて吾にとどまる
なまなましくありたし終りまで仕事したし進藤兼人九十五歳の言葉 |
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○ |
東 京 |
吉村 睦人 |
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悪代官が次々殺されるテレビの劇つづきて現代官僚の悪徳のニュース
蝋梅の花の終りて貝母の花うつ向き咲けばつづくかなしみ |
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○ |
奈 良 |
小谷 稔 |
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棚田荒るる年々の写真にありありと植田二枚に減りゆく過程
石蕗は風の運ぶかわが庭に増えて今年は斑入り一株 |
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○
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東 京 |
石井 登喜夫 |
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生温(ぬる)くなりし湯たんぽを腹に乗せ手を乗せて三十分ごとの尿意を防ぐ
リハビリを終へて屋上庭園に富士を見よとぞ支へられきぬ |
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○ |
東 京 |
雁部 貞夫 |
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誕生日すぎればはやも年の瀬か父の齢を越えて十年
五十九の父は十人子をなせど吾はひとりの子を持て余す |
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○ |
福 岡 |
添田 博彬 |
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父母のみ骨無きに狼狽へ声あぐれば何処からか集まるビニールに入りて
十三年隔たり死にし父母の墓夫々あるを訝らざりき |
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○ |
さいたま |
倉林 美千子 |
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つぶさなる月面の映像を見し後の思ひと言はむ人の世のこと
心揺りよみがへり来る太鼓の音香具山に会ひし村の祭りの |
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○ |
東 京 |
實藤 恒子 |
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はにかめる車椅子の君に添ふわれらは四人いざいざ飛鳥へ
橘寺の彼方に十三重の塔見えてほのぼのと共にゆきし日を恋ふ |
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(以下 HP指導の編集委員・インストラクター・アドバイザー) |
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○ |
四日市 |
大井 力 |
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貧に戻るを忘れし吾等のひしめける地球は青し月の地平に
四億年かけて海中の肺魚より進化を遂げし吾等といふぞ |
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○ |
小 山 |
星野 清 |
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かかる夕日見つつ駅よりの一里半を日ごと歩みし少年なりき
貧しかりし少年のわが日々を言へばそれありてこその今と孫言ふ |
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○ |
札 幌 |
内田 弘 |
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天あおぎ水飲む鳩の喉元がくうと鳴りたりベンチの前に 踏切りを渡り行く時捨てて来し家に繋がる一瞬の想ひ |
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○ |
取 手 |
小口 勝次 |
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下町の樋口一葉「歌塾」にて貴族と付き合ひしも明治の夜明け 一葉の逝きて四年の後のこと左千夫は子規の門に入りにき |
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