アララギ、新アララギの選者であり、歌壇にも信奉者の多かった三宅奈緒子(1921〜2016)先生の作品を紹介する。第一歌集『白き坂』より。2007年に上梓された歌集である。
毛糸巻く
花野菜買ひ来てスープ煮ることもひとりの奢り今宵たのしも
毛糸など干したる縁にこともなく来りて君は紅茶飲みゆく
こともなく帰りゆきしを恋ひながら昏るるまで毛糸巻きかへしゐる
熱帯魚おきたる卓にまむかへば少年のごときもの言ひをせり
橋わたりあてなき花見に吾はゆく匂ふ林檎の籠堤げながら
少女のごと仔犬を追ひて坂くだるひとりの今日を歓びとして
しらじらと榎の木の花の吹かれ来る縁にしばらくもの濯ぐぎたり |