作品紹介

選者の歌
(令和元年7月号) < *印 新仮名遣い >


  東 京 吉村 睦人

群なしてをらねど時折藻の中に姿を見せる蝌蚪かといく匹か
母住みゐて父が訪ねて来しといふこの古き町をわれも愛しむ


  東 京 雁部 貞夫

「王が鼻」の上より昇る朝の日が女鳥羽の橋の吾を照らせり 王が鼻は美ヶ原の最高峰
辨天樓かの日の如く大き店縄手通りのそば屋百年  松本・縄手通り


  さいたま 倉林 美千子

次ぎには海を見むと訳して幾年か待ちてくれたる友あり吾に
老いし夫を守りくるると子の言へり二泊の旅に発つべく思ふ


  東 京 實藤 恒子

縒り合はす太きかづらの欄干に手を吊橋の丸太揺るるに足を置く
己が視覚はいま手と足に集注す揺るる吊橋を渡りてゆくに


  四日市 大井 力

隣びと亡きふた月にはや茂る草か人よりつよきすがたに
大いなる輪廻のちからに動く世のひとつか隣の友の孤独死


  別 府 佐藤 嘉一

戦中は全寮制にて三浦君と会う度空腹を嘆き合ひゐき
失恋したと思ひ込み家に籠り居るを連れ出して共にうどん食ひにき


  小 山 星野 清

西風に煽られて入る店先に見よとばかりに春播きの種
春を待つ心兆して久々に小松菜の種一袋買ふ


運営委員の歌


  甲 府 青木 道枝 *

歩くのに疲れたら石にすわるのですそうすればまた力わきます
疲れたる母のすわりし黒き石残れり短歌講座への道


  札 幌 内田 弘 *

ガラス越しの水族館に寝る大蛸を見据えて大皿刺身を食いぬ
磯の海覗けば群れし小魚がざまあみやがれと素早く逃げる


  横 浜 大窪 和子

人間が統ぶるといへど思はざる暴走をすることなきかAI
AIがいつか刃向ふときあらむ核さへ制御できぬわれらに


  能 美 小田 利文

イチローを惜しみ帰らぬ四万人をテレビに目守る一千万人
イチローの「悔いなどあらうはずがない」吾も言ひたし子に看取られて


  東広島 米安 幸子

一斉に萌えたつ谷の雑木山いちばんつつじは裾廻にあかし
朝靄をつんざく雉の声のしてわが放棄田に巣籠もるらしき


  島 田 八木 康子

大根に青き花咲きルッコラに薄ネズ色の花咲く四月
ひと度も我に欠詠なきことを告げ来し人の言葉が灯る


  柏 今野 英山(アシスタント)

ビルの間にすたれゆく商ひ残りたり一張羅のために裏地売る店
残りたる緑青壁の商店に思ひはめぐる神田のにぎはひ



先人の歌


『新しき丘』より       小暮 政次

小暮政次は明治四十一年に生れた。太平洋戦争のさ中から終戦までを二十台の多感な時代に送っている。後に長くアララギの選者を務めた作者の、格調高く内容の深い歌を味わってほしい。

雪の道ををののきみだれ行きし日よ狭し狭し吾が理解の範囲は
怒りたる電話かけつつありしとき地震(なゐ)の過ぎしは吾知らざりき
寝息こもるガラス戸あけて夜半あはれ街なかにして杉の上の月
埃吹く風にたじろぐ馬群(ばぐん)ありくれなゐ滴る落日の前
日本語は今も清しくあるらむと海渡り吾が帰り来にけり
絹の如く光り流るる雲ありき薪二三本割れば疲るる


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